今の私たちであれば、勝機は十二分にあると思われます
夢ですね。しかし口に出しても現実のなんの足しにもなりませんよ
でも決戦前夜に魔王を倒す夢をみるなんて縁起がいいですね!
おいおい、そいつを確認しないと今日の日付けもわかんねーのか!
決戦前で気持ちは分からないでもないですが、勇者さんらしくないですね
み、皆さん、最後の戦いの前なんですよ? 誰だって緊張くらいしますよ!
だけどオレには間違いなく、この手で魔王を倒した記憶がある
【宿屋】
突然ですまないけど……『時の砂』という道具は、時間を巻き戻すんだってな
はい。ただその存在はあくまで文献によるもので、この世界には現存しないはずです
賢者の読んだ文献の範囲でいい、その時間ってのはどのくらい巻き戻すんだ?
そう長い時間は巻き戻せないようです。ある本では魔物との一戦ほどとありました
なんていうか、時間が丸一日以上さかのぼるような呪文なんてないよな?
はい。ラナルータの昼夜逆転は半日を往復するのでそれ以上は伸びませんし――
パルプンテの効果でもそのような実例は聞いたことがありません。ただし唱えた後に何の効果もなかった場合
実際は時間が巻き戻っていながら、術者が知覚できていないというケースは考えられなくもありません
……まぁでも、パルプンテは戦闘中しか唱えられないし、あくまで戦闘にしか影響を及ぼさない呪文だよな
……そうだな。戦士たちからみればオレだけがどうかしてるように見えるんだよな
そろそろ説明してくれませんか? 時間の大切さはあなたがよく分かっているはずです
まず前提として、これから話すことに一切の冗談はないことを信じてくれ
ここまで来たんですもの、いまさら勇者様を疑ったりしません!
なぜか今のオレには、これから倒しにいくはずの魔王を、すでに倒した記憶がある
その後訪れた平和な世界も、一時だが過ごした記憶がある
分かりやすく言ってしまえば、時間が巻き戻ってしまっている
そりゃーおめー勇者! さすがにすぐにゃー信じらんねーよ!
じ、時間が巻き戻るなんて恐ろしいですね……。魔族の仕業なのでしょうか?
まったく分からない。分からないが、今話したことを擬似的に確かめる方法はある
でしょうね。もし本当に時間が巻き戻っていることを知っているなら
つまり、勇者さんはこの先起こることを全て知っているわけですよ
少しだけな。まぁとにかく、今は目の前の魔王相手にだな
あれー勇者おまえ先のこと予知できるんじゃないのか?
ちょっとかしこさ足りない人はおとなしくしててください
最初に門を入って……小部屋……階段……宝物庫……大広間……
仮にもパーティーを率いる長だからな。一度歩いたダンジョンの土地勘くらい強くないと
そんな勇者様だから、みんな安心してついていけるんですよっ
……なるほど、やはり城内すべてを練り歩いたのですね
もちろんだ。ダンジョンをしらみつぶしに探索しないヤツなんて冒険者じゃない
探索後、魔王城から出ることはできなかったのですか?
いやできたはず。でも欲をかいて開けてしまったんだよな、最後の扉を
さすがに逃げられなかったから戦った。結果は勝ち。大接戦だったけどな
あとは……城に戻って……王に謁見して……。……すまない、そこからはよく憶えていない
そ、その後が肝心なんですが! 平和になって勇者様はどうなったのですか!
呪われた武具と回復アイテムがいくつか。うちわけはこんな感じだ
ミミックも混じってるじゃないですか。中身を知っている方が回収効率がいいでしょう
ということは私が二回生き返らせたんですね! 戦士さん感謝してくださいねえっへん
まぁ中身を見る限り、最低限必要なアイテムは宝物庫に寄るだけで事足りる
そんな感じだが、ただ今回は確かめたいことがあるから、宝箱はすべて回収する
まぁそれはおいおい話す。とにかく魔王城内のマップについては以上だ
こんなのとか、こんなのとか、こおんなドラゴンが出る
どれも外見は今まで見たことがあるモンスターばかりですね。上級亜種ですか?
あっいえ結構ですインクの無駄です。確認したのはこの数種類だけですか?
ああ。でもあの時はしらみつぶし態勢だったし、これで全部だと思う
で、特に注意すべきモンスターはこいつとこいつと……全部だな。さすがに最後のダンジョンだ
ただ何を仕掛けてくるかは分かっているから、最初から対策ができる分だけマシだろう
というか勇者の絵が下手なおかげで、ずいぶん楽な相手にみえるな!
こいつら凶悪なんだぞ。実物見てショック受けても知らんぞ
勇者さん、次は魔王についてお願いします。ちなみに絵は変に手ごころ加えなくて結構ですので
最初は二回行動だ。通常攻撃、ブレス攻撃、上級呪文、いてつく波動をじゅんぐり
最終形態は三回行動。やることは大して変わらなかったが、技の威力が強くなっている
でもよ、こんだけ素性が丸ハダカにされりゃ魔王も楽勝だろ!
そうですねっ、それに加えて勇者様の的確な指示があれば恐いものなしです!
まぁ勇者さんの言うことが正しければ、ダンジョンを探索し尽した状態でも倒せちゃったようですし
宝箱が置かれてるなら貰っておく。その上で、魔王戦は万全の状態で臨みたい
魔王戦……私たちにとっては未知の最終決戦なんですよね……
探索の他の目的は何ですか? 先ほど勇者さんは確かめたいことがあると言ってましたが
その時になったら話す。今はとりあえず魔王城攻略が成功してからだ
適当で大丈夫だ、なんとかなる。正確にはなんとかなった
前の記憶の突入時刻なんかを合わせたりはしないのですか?
しなくていいや。欲をいえば自分の体験を丸々再現できれば少しは楽なんだろうけど、そりゃほぼ不可能だしな
よーしなんかよく分からんがいよいよだな! なんか張り切ってきたぜ!
【魔王城城門】
禍々しい魔力が溢れています……皆さん気を付けてくださいね
ゆ、勇者様の絵とぜんぜん違う! ぜんぜん違います!
【魔王城内】
――
勇者さんが書いたものとほとんど同じでしたね。地図は
ということはやっぱり、勇者様は本当に一度魔王を倒しているのですね!
たからばこは ミミックだった!
ミミックは ザキをとなえた!
せんしは しんでしまった! ▼
――
ゆうしゃは リレミトをとなえた! ▼
ところで勇者さん、確かめたいこととは結局なんだったのでしょうか
ああ、忘れていたわけじゃないけど、先にそっちの用を済ませておくか
【王の間】
――
――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?
前から思ってたけど、わざわざ王様の前でコレ記録するのになんの意味があんのかねえ!
だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいーじゃん!
儀礼的な様式美ですよっ。今までだって欠かさずやってきたことでしょう?
【宿屋】
――明日は魔王との決戦だ。このあとはしっかり休んでくれ
結局今日の一連の行動はなんだったのですか? 私には分かりかねましたが
明確な根拠は二つ。前の記憶では、魔王を倒したあと冒険の書が一度も更新されなかったこと。と、
自分が巻き戻しによって送られた時間が、最後に冒険の書を記録した瞬間だったことだ
冒険の書とはそれほど大層な代物なんでしょうか? 単なる日記帳みたいな認識でしたが
オレも最初は同じだったさ。だけど気になりだしたら止まらなくなってな
か、仮に時間の巻き戻しに関わりがあるとしたら……その冒険の書の正体は……
それまでの時間を刻み、その時点を巻き戻しの着地点にするという、とんでもない代物だ
時の保存書? 今まで当たり前のように使ってきたそれが、ですか?
ああ。時間を保存するアイテム。そう考えると一番しっくりくるんだ
……その仮説が正しいとして、最後に時間を保存したのはつい先刻になりますね
そう。魔王城攻略後、魔王討伐前。ここだ。真の決戦前夜だ
ようやく私にも、勇者さんが確かめたいことの意味が分かりました。もし本当に冒険の書がカギならば
これからさき再び巻き戻しが発生した場合、その巻き戻される時点は
最初に勇者さんが記憶の食い違いを自覚したという時点よりも、後とということになるというわけですね
『時の保存書』が本物なら……魔王を倒した後にでも、記録を残せばいいだけじゃないですか?
もっともな意見ですね。その時点その時点をこまめに刻めば、巻き戻されるリスクも少なくなります
……よく憶えていないけど、それは無理だった気がする
魔王を倒した後は、記録の保存は無理だ。なぜなら……
なぜなら……。……すまない、思い出せない。前の記憶では、何かが起こったんだ
それが思い出せない。何か……オレにとって、とても恐ろしいものだったような気がする……
この際だからはっきり言いますと、私はまだ勇者さんの話を信じ切れていません
興味深いと思って付き合ってきましたが、いくらなんでも荒唐無稽に過ぎます
全てが真実だとして、魔王討伐後に記録すればいいだけの部分でどうしてお茶を濁すのですか
そもそも魔王城の構造や出没モンスターの件は、あらかじめ知る方法がないとは言いきれませんし
いや当然だ。オレ以外にとってははじめから理解のしようがない話だからな
むしろ鵜呑みにされるのも不安だったところだ。賢者みたいな批判的思考は逆に欠けてはならないと思う
オレの行動理念は、世界中の人々はもちろん、この場の仲間全員にも
満足に平和な日々を送らせること。にある。それ以外の無意味な行動は一切していないつもりだ
……その割には、モンスター闘技場では馬鹿みたいに手に汗にぎっていましたけどね
ぱ、ぱふぱふのお姉さんに一人でついていったりもしました!
とにかく時の保存書が機能するのは、魔王討伐前のみという前提で考えるべきですか
実は少しゆさぶってみただけなんです。申し訳ありません
もとより勇者さんがどう答えようとも、私は平和な世が訪れるその日まで貴方に従う所存です
では話を戻しますが、明日はどうするつもりなのですか
あ、あの勇者様、私たちは魔王と戦うのは初めてなんですけど、その
大丈夫。一度は勝った全く同じ相手と、もう一戦交えるだけだ
明日の魔王戦はいつもと同じように命令させてくれればいい。今のオレ達なら勝てるからな。大丈夫だ
――
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城】
今回は魔王を倒すつもりで乗り込むけど、みんな無理だけはしないでくれ
といっても一度ガサをいれたダンジョンなど恐るるに足りませんが
しかし本命が魔王討伐後に控えてるとなると、どうもこれ前座気分が拭えないな
【魔王の間・扉】
なんだ? ああそうか、みんなはこの先は初めてだったな
しかし勇者さんは一度倒してるのですよね? 気楽に構えていいと思いますが
よしそれじゃ開けるぞ。念のため言っておくが一度開けたらもう引き返せないからな
【魔王の間】
こいつが魔王か! なんか勇者の書いた絵にニュアンスが似てるな!
おまえのながいたびも ここでおわりだ。わがまりょくによって ほろびるがよい!
戦士のこうげき! まおうに××のダメージを あたえた! ▼
また勝手に始めやがった! 僧侶はフバーハ、賢者はバイキルトを!
次の形態が控えてます。体力魔力ともに温存しながら戦いましょう
いくぞ! お前をいま一度打ち倒し、今度こそ平和な日々を手に入れてやる!
――
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
だが このからだくちようとも わがたましいはえいえんにふめつ。ぐふっ
……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!
さすがに呆気なかったとは言いませんが、絶妙な物足りなさでしたね
勇者様がひとつも無駄な指示を出さなかったおかげです!
っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!
あ、ああ、すまない。でもオレからしてみればここからが正念場だからな
ああ。そこが決着しない限り、今のこの瞬間もすべて無駄になってしまうからな
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
おい勇者どこ行くんだよ! 俺たちの城はここじゃないだろ!
分かってる。だがいま優先すべきは、冒険の書――いや、時の保存書だ
前回は確か、まっすぐ自分たちの王のもとへ向かった。もちろん魔王を倒したことの報告も兼ねてだが
あの時のオレは、王と話して新たな記録を刻もうとしていたはずだ。だがそれが叶っていない
最後に途切れた記憶もあわせて考えると、いまオレたちの王に会いに行くのはまずい気がする
それで別の王のもとで冒険の書を更新するというわけですね
ちぇーなんでえ! カッコよくガイセンする気満々だったのに!
そうですよっ、魔王を倒したんですよ? もう何も憂いはないはずじゃないですか
すまないな。まだ戦いは終わってないんだ。それどころかもしかすると
魔王とは比べ物にならないほどの強大な敵を相手にしているのかもしれない
だが安心してくれ。必ず勝つ。そしてみんなで平和な日々を過ごそう
【隣国の王の間】
ありがとうございます。あのところで、冒険の書の記録をしたいのですが
これです。あなたにも記録して頂いたおぼえがあるのですが
えっ? ですからこれです! お忘れになったのですか?
ふむ、見せてみよ。……ううむ、やはり見覚えがないな
この……冒険の足跡が刻まれた日記帳が、どうしたというのだ?
まさか冒険の書本来の効力が失われて、本当にただの日記帳になってしまったのか!?
勇者様、おかえりなさい! どうでしたか? 用事は済みましたかっ?
……まだだ。ルーラをとなえる。こうなったらアテは全部回るからな
――
……念のため、形だけでも記録の手順を演じてもらったが、間違いなく効果はないだろう
分かるんだ。いつもの手ごたえというか感触というか、そういうのでな
他に記録してもらえる場所は残っていませんが、これは八方塞がりですか?
どうもそうらしい。……だが、一応他の方法も考えてみて
なんだって魔王を倒したってのにあちこち道草しなきゃなんねーんだよ!
打ち倒す魔物はもういないんだろ! いま、平和ってやつなんだろ!
こんなおあずけ状態、ガマンできねーぜ! とっとと帰って、王様からたんまりご褒美もらっちゃおうぜ!
……わ、私も戦士さんに賛成です。勇者様、顔に疲れが出てます……早く帰りましょう?
いや、いい。冒険の書が機能しないんじゃ、もうほとんどお手上げ状態だしな
ゆうしゃは ルーラを となえた! ▼
【城下町】
よっしゃー帰ってきたぜ俺らの本拠地! テンション上がってきた!
早く王様に挨拶を済ませて、ゆっくり休みましょうね、勇者様
あまりに帰りが遅いから、王様は本人なしで勇者様を称えるところだったんですよ!
無事に帰ってきてよかった! 勇者様ばんざい! 魔王を打ち倒した勇者様ばんざい!
ほらみろ。主役がいないのに勝手に式を挙げられるところだったんだぜ!
……ここに来なかったら、勝手に式を挙げられていた?
そ、そうですよ! そんなこと、納得いきませんよねっ
……もしオレの予想が正しければ……魔王を倒した時点でもう……
【城】
あ。ああ、確かに平和だな。確かに、今この瞬間は平和だ……
勇者さんの話では、このあと何か恐ろしいことが起こるとのことですが
憶えていたか。ま、たぶん大丈夫さ! 今は……この一時をみんなで味わおう
【王の間】
こころから れいを いうぞ! そなたこそ まことの ゆうしゃ!
そなたのことは えいえんに かたりつがれてゆくであろう!
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
前から思ってたけど、わざわざ王様の前でコレ記録するのになんの意味があんのかねえ!
だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいーじゃん!
儀礼的な様式美ですよっ。今までだって欠かさずやってきたことでしょう?
――
【宿屋】
王は冒険の書の『記録方法だけ』をなぜか知っている。結局得られた情報はそれだけだった
由来も仕組みも作用も知らないとなると……王様すらこの見えざる力の駒に過ぎないのだろうか……
なんだって王様にあんな妙なことばっかり聞いたんだよ?
――
冒険の書の正体が『時の保存書』……? 本当に私が名づけたのですか?
に、二回も魔王を倒しているなんて。間違いないのですか?
オレ視点では証明された。もうみんな魔王城というダンジョンは攻略済みなんだろ?
一番最初に巻き戻しが起こった時点から、時間が進んでいる。冒険の書の効力は決定的だ
まず魔王を倒してしまった後は、冒険の書はその時点以降は効力を失う。王様たちまで影響してな
そして魔王討伐後にオレたちの王に謁見すると……時間が巻き戻されてしまう
……は正しくないな。正確には、『始まってしまう』だ
分からない。分からないけど、『それ』が始まってしまうと、オレたちにはもうどうしようもない
どうしようもないから、時間が巻き戻るしかない……という理屈が出来上がってる気がする
要するに『王への魔王討伐報告』が巻き戻しの引き金、って認識でいいと思う
……でしたら魔王を倒した後、我々の王に会わなければいいだけの話ではないですか?
さすがに真っ先にそれは考えたけど……どうも上手くいかない気がする
勘だ。はっきりした根拠はない。――だから今回は、実際にその線を検証してみるとする
なにもかも話が急すぎて……私と賢者さんと戦士さんは、まだ魔王に会ったことすらないんですよ?
ああ、まだ絵に描いてなかったっけ? ちょっと待ってくれ
いえ勇者さんの絵はもういいです。それより、私にも僧侶さんが言いたいことは分かります
突拍子がなさすぎるのです。私たちはまだ、勇者さんの過ごしたという未来の時間を、一片も経験していません
そ、そうです。魔王を倒したあとの世界なんて、簡単には想像できないんですよう
いや、オレの配慮不足だった。『ここまで』の流れで全部鵜呑みにしろってのも無理があるよな
そもそも魔王城の構造や出没モンスターの件は、あらかじめ知る方法がないとは言いきれない。だろ、賢者
だから今度は、より信用に足る情報を伝えようと思う。まぁ結局未来予知の形になるけどな
な、なんでそこで乗り出すんだよ。ただの魔王のデータだよ
オレを基準の100として表してみた。魔王は大体そのくらいだ
これが二回の魔王戦で、魔王が取った各行動の大体の回数
見て分かる通り、形態が変わってからはブレス攻撃の頻度が高くなってるな
だがその分、いてつく波動の割合が少なくなってる。真魔王戦は積極的に補助呪文を使うべきだ
さ、さすが勇者様ですっ! もう魔王は倒したも同然ですね!
……とても信じられませんが、全てがもしこの通りであれば、勇者さんの話を信じてもよさそうです
それにしても毎回これ解説するの面倒だな。何か考えとくか
――
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城城門】
昨晩のデータが真実であれば、魔王など恐るるに足りませんが
しかし魔王を倒すという本来の目的が、すっかり冒険の書検証の手段になってしまったな
――
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ。だが このからだくちようとも
……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!
勇者様がひとつも無駄な指示を出さなかったおかげです!
っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!
――
【孤島の小屋】
昨晩そういう話だったんだよ。爆睡していたお前が悪い
だって俺ら、魔王倒した英雄なんだぜ? なんだってこんなコソコソ隠れる必要があんだよー!
城に戻れば、『何か』が起こって時間が巻き戻ってしまう……信じられない話ですが
勇者さんの魔王攻略データは驚くべき精度でした。もはや疑おうにも反論が用意できません
わ、私たちはしばらくここで暮らしていくのでしょうか? 誰にも見つからないようにしながら……
だが、おそらく上手くいかない。きっと半日も経たず分かるさ。あいや、みんなは分からないか……
ああ。でもま、もし起こればまたヒントが増える、起こらなければ御の字。楽観的に考えてるさ
ダメ。一人も城に戻らせない。今回はそういう実験だからな
ところで時間のあるうちに、みんなにやって欲しいことがあるんだが
ああ、実は巻き戻しが起こるたびに、逐一みんなの信用を得るのが面倒になってな
それに今回は魔王の情報だったけど、それで確実な信用を得るためには実際に魔王と戦わないといけないだろう?
おそらくこのループを解決するには、『魔王を倒す前』に何か行動するしかないと思うんだよな
要するにてっとり早く信用を得られるような、みんなの『呪文』を教えて欲しいわけだ
キーワードってことだ。今から、オレがそれを言えばすぐに信用してもらえるような『呪文』を紙に書いてくれ
次に巻き戻しが起こったときに、それぞれにその呪文を言う。そうすれば冒険の書攻略がやりやすくなる
極力自分しか知り得ないようなことだよ。何でもいい、秘密とか、思い出とか
ちなみに呪文を書いた紙は、当然ながら過去の時間に持ち込めないからな
オレがその呪文を覚えるしかない。つーわけで書いたらオレのところまで持ってきてくれ
ちゃんと今の私からのメッセージであることを伝えてくださいね
また、その呪文はできるだけ練習はしないでくださいね
? 分かった。……うーんやっぱり分からん。賢者の考えることは
そうか……それならそうと事前に言ってくれりゃよかったのに
ほほーい! こんだけありゃ当分暮らしには困らねぇ!
考える。もしまた巻き戻しが起こってしまった場合を想定して
さすがに一生ここに住む訳にもいかないし、かといって城に戻るのもはばかられるし
私は別にここに骨をうずめても構いませんが。賢者の隠遁生活など珍しくないですから
ありがとう。まあでも、とりあえず一日ぐらい様子をみてからの話だな
何事も起こらなければ、それで冒険の書は暫定的ながら攻略成功だ
正解は魔王討伐後の王への謁見を回避することだった、ということになる
……けれど、どうもそんなことで決着がつくとは思えないんだよな
あ!? ここから出してもらえないんじゃーこんな大金意味ねーじゃん!
その前に確かめておきたいのですが、今回巻き戻しが起こらなかったとして
勇者さんはこれからここで暮らしていくことに抵抗はないのですか?
そうだよ! なんで救世主ご一行がこんなヘンピなトコでひっそり暮らさないといけないんだよ!
そうだなぁ。オレはこれから先、平和な時間が過ごせればそれで満足だよ
そりゃーオレだって帰るべき場所はあるよ? でも、時間を巻き戻される方が嫌なんだよな
おかげで魔王との戦いはずいぶん楽になったけど、全部パァになるってのに慣れた訳じゃない
なにより『今この場で』語りあっているみんなと別れるのが辛いよ。だから現状が保てるなら、それでいいんだ
勇者……お前……もう一回説明してくれ! いいこと言ったんだろうが、よく分からんかった……!
分かりました。提案というのは大したことではありません
その冒険の書、いっそのこと焼き払ってはいかがでしょうか?
冒険の書が巻き戻しのカギというなら、今その根源を断ってしまえばいいのでは?
勇者さんは今後再び、時間の巻き戻しが起こる可能性を危惧しているようにみえますが
その憂いも冒険の書がいつまでも手元にあるせいかもしれません
もちろん、冒険の書を抹消することも巻き戻しの引き金だった、などの危険はないとは言い切れませんが
少なくとも『今』の冒険の書は、各地の王の反応から分かるように効力を失っています
よってさしたる影響はないと私は思います。それは無意味の裏返しですが、試してみる価値はあるかと
オレは冒険の書を完結させることばかり考えていたが、こいつはもともと完結し得ない物なのかもしれないな……
そろそろご飯にしませんか? この島、身体にいい薬草がたくさん生えているんですよっ
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
はい。これでループ問題が解決したかどうかは分かりませんが
先ほど島の周りを軽く調べてみましたが、この気候が続けばしばらくは生活に困らないですね
じゃあこれから皆さんは、そっそのっ……家族ですねっ
家族!? はっ、俺は今まで一体何を! かあちゃん……
……ここで生活していくのに先行きの不安もなさそうだ
――
【王の間】
いたしかたない、敢行せよ。後日勇者が報告に参じた暁に、改めて式を執り行えばよい
この度は勇者の活躍によりついに魔王は打ち倒され、害悪な魔物なき平和な世が訪れた!
もはや魔王の歴史は終わった! 人の子の勝利に祝福せよ! 勇者を称えよ!
そうじゃ、この大役を果たした勇者を称えよ! そしてその記憶を末代まで刻み続けるがよい!
ワー ワー ワー 勇者バンザーイ ワー ワー ワー
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
……直接王様との関わりがなくても、強制的に巻き戻されるのか。結局一日ももたなかった……
前から思ってたけど、わざわざ王様の前で冒険の書に記録するのになんの意味があんのかねー
だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいいじゃん
役目を与えられた者が記録しなければ、冒険の書は機能しない
……王様が、何者かに役目を与えられているというのですか
ああ。そしてオレ達にも役目が与えられている。それを果たしてしまうと、どうあがいても物語は終わってしまう
おい勇者! もっと分かりやすく教えてくれ10文字くらいで!
燃やしたはずの冒険の書が手元にある。過去の冒険の書なんだから、考えてみれば当然か
――
【宿屋】
てっとり早く話そう。実はオレはもう、三度も魔王撃破を経験している
そしてさきほど王様の前で記録した瞬間をスタート地点として
魔王撃破後の(おそらく)王の祝典をゴール地点に時間が巻き戻されるという、ループ状態に遭っている
元凶はこの冒険の書だ。このループを脱出するには――
ちょちょちょちょっと待て! 完全に意味が分からん!
そ、そうですよっ、勇者様が何を言ってるのか私にはさっぱり……
言っていることは理解できますが、話の見通しがありません。根拠となる材料を
あ、ああそうだった。すまない、いつの間にか焦っていたみたいだ
まずはオレの言っていることを信用してくれ。そのための『呪文』は用意してある
一人ひとり違うから……これから一人ずつ別室にきてくれ。プライバシーは守ろう
【別室】
未来の私が、勇者さんに妙なことを吹き込むほど切羽詰ってなければいいのですが
さすがに状況の飲み込みが早いな。だがお前の『呪文』はとびきり妙だぞ
よし言うぞ……『赤メダパニ青メダパニュ黄ミェダパニュ』
すまん間違えたもう一回。『赤メダパニ青メダアパニ黄メダパン』
『赤メダパニ青メダパヌ黄メダパム』。『赤メダパニ青メダパニュキメーダパニ』あーくそ!
な、何笑ってんだ! お前からもらったメモは『できるだけ早く』なんて注釈までついてたんだぞ!
失礼しました。勇者さんがすでに魔王を倒したという話、確かに信じましょう
勇者さんが早口言葉が大の苦手であることを知っている人間も、そう多くはないということです
それに普段は凛々しい勇者さんのおちゃめな一面も独り占めできましたし私は満足です
な、なんだって? 早すぎてよく聞き取れなかったもう一回
【別室】
いや。これは未来の僧侶から教えてもらった言葉で、意味までは教えてくれなかったんだが
あ、ああそうなんですねっ。ま、まさか勇者さんも一緒に数えていたのかと思ってびっくりしました!
えっ? ほ、本当に大したことじゃないんですよっ。勇者様のことは信じますので今のは忘れてください
ダ、ダメです! そ、その、恥ずかしい……ですから……
ちっ違いますっ! 違いますよっ!! 神に誓ってそういうコトじゃないです!!
【別室】
いいか。お前だけかしこさが2ケタあるのか不安だからよーく聞け
オレはお前の親父の遺言を知っている。なぜなら未来のお前に聞いたからだ
おおおおおおお! なんでお前がそれを知っているんだ!?
お前に教えてもらったからだ。いいな、これからオレの言うことは全て信じろ。そして
大人しくしていてくれ。事態は深刻だ。くれぐれも邪魔をしないよーに
そんなわけに行くか! 魔王を倒さねーとお袋に合わせる顔がねーよ!
……お前30万ゴールドもありゃ暮らしに困らないって、お袋のか?
な、なんだそりゃ? そりゃそんだけの金がありゃラクできるだろうけどな!
そうか。……待ってろ。すぐにその生活、叶えてやるからな
――
そんな……いくら頑張っても時間が巻き戻されるなんて……
いや、たぶん正確には違うな。俺たちがこの物語の、役目を終えることだ
王の時も少し話しましたが、その役目を与えているものというのは何者なのでしょうか?
分からない。分からないが――オレたちの概念を遥かに超越した存在だ
さあな。けれど、僧侶が崇拝しているような存在とは別のものだと思う
とにかくそれが定めた縛りがある限り、このループから抜け出すことはできない
前回は巻き戻しが起こる直前に、冒険の書をメラで燃やした。だが
この通り効果はなかった。だから今回はこの冒険の書を
『魔王を倒す前』に燃やそうと思うんだが、どう思う? 賢者
そうですね……時の保存書としての効力は残っているとはいえ、やはり同じ結果になると思います
いくらこの時点で冒険の書を抹消しても、過去の記録がある以上は巻き戻しの呪縛は解けないでしょう
オレもそう思う。だから今回は、そこからさらに一歩進めてみようと思う
ああ。今まで単に機会がなかったが、みんなの信用を得た『今』を記録すれば、今後同じことをする手間が省けるからな
――しかしながら、勇者さん視点でしか本質を理解できないセリフですね。我々には未知の領域です
そ、そうです。私たちはまだ、魔王に会ったことすらないんですよ?
大丈夫、なんとかなる。それにしてもこのギャップにも大分慣れてきたな
【王の間】
――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?
では しばし やすむがよい! また あおう! ゆうしゃよ!
やはり当事者でなければ、意味のある行為には見えませんが
【宿屋】
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
う……分かってはいましたが、今までの冒険の足あとがこんな簡単に……
勇者さん。先の勇者さんの話も織り込み済みで言わせていただきますと
私たち視点では、勇者さんがいきなり訳の分からない理由で冒険の書を燃やしたようにしかみえないのですが
『永遠に平和な日々を過ごせない』リスクと天秤にはかけられない。どうかここはオレを信じてくれ
そうそれ! そういう分かりやすい流れにしてくれよ!
……効力のあるうちに冒険の書を抹消……果たしてこれで『何者か』の呪縛を解いたことになるのだろうか……
――
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城城門】
昨晩勇者さんがまくし立てたデータが真実であれば、魔王など軽く丸腰ひねるがごとしですが
うまくいかなかったときの時間のロスが精神的に惜しい。今回は最速タイムを弾き出すつもりでいこう!
――
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ。だが このからだくちようとも――
ん……んん!? 倒した? もしかしてもう倒しちゃったのか? っしゃあああああ!!
我々のここまでの苦労をあざ笑うかのような瞬殺っぷりでしたね
っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!
――
【王の間】
こころから れいを いうぞ! そなたこそ まことの ゆうしゃ!
そなたのことは えいえんに かたりつがれてゆくであろう!
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
効力がある状態の冒険の書を抹消しても、過去の冒険の書の記録がある限り、全て無意味……
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
冒険の書を消滅させた上で、王に冒険の書の記録を要請……
解決策とは思えないが、何か手がかりくらいは掴めるかもしれない……
――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?
お言葉ですが王様、冒険の書はもうこの世にありません
――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?
そ、そうか……本来あるはずのアイテムがないために、王は与えられた役目を果たせない!
ルールに露骨に干渉したことで、世界を保つ歯車が狂ってしまったのか!? れ は もう わりなの ?
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プツン
勇者様! ど、どうしたのですか!? 顔が真っ青です!
どうあがいてもこのループから抜けられない。頭がおかしくなりそうだ
平和な日々が目の前に吊り下げられてるのに、いくら手を伸ばしてもつかめないんだ
オレは、いやオレ達は永久に……役目を超えた世界に落ち着くことを……許されないんだ……』
【宿屋】
……今日はもういい。今、わりと精神的に参っているんだ。少し休ませてくれ……
勇者様、大丈夫ですか? 本当に顔色が悪いですよ……
一晩休めば大丈夫だ。ほら、みんなも疲れただろ。今夜はもう寝よう
明日は……予定通り魔王戦だ。それに備えてしっかり体力を回復しておくように
あ、あの! なにか気分が悪くなったりしたらいつでも私を起こしてくださいね!
ありがとう。だけど大丈夫だ。心配いらない。大丈夫だから……
【寝室】
この世界は誰かが創ったものだ。それはいわゆる神とか創造主とか、通俗的で漠然としたものじゃない
何者かは分からない。どこにいるのかも分からない。もちろん目的だって分からない
ただ、オレみたいな『駒』なんかでは抗えないような強固なルールを敷いている
魔王を倒す……つまりこの世界での最後の役割が果たされると、強制的に『終わる』
終わったあとは……最後に冒険の書に記録した時点からの、再スタートになってしまう
この事実に気がついているのは、おそらくこの世界でオレだけだ。なぜか。……いや今はそんなことはいい
オレしか気がついてないなら、オレが何とかしなければならない。世界を真の平和に導くために
しかし……どうやって……明日だって何をすればいいのか、まだ見通しもついていない……
とりあえず明日考えよう……今は眠って頭をすっきりさせないと……
【宿屋・別室】
そしていつもオレのことを勇者「様」だなんて呼んでるけど
オレはそんな大層な器じゃない。現にこの世界一つ救えてないからな
そういえば僧侶のキーワードだった『100回』……いや96回って何の数だったんだろう
オレと僧侶が一緒に数えられて、かつ今まででそのくらいの回数のものといったら……
【宿屋・待合室】
いえ。勇者さんをそこまで憔悴させるという難題に興味がわきまして
そうか。でも賢者は一度もループを体験していないはずなのに、考察できるのか?
もちろん全て想定です。勇者さんの話を鵜呑みにした上で考え込んでいました
……私の考えですと、勇者さんの言うループから解放されるには
やはりカギであるその冒険の書を、『完結』させるか『消す』かのどちらかしかないと思います。そして
未だそのどちらも、具体的な方法が思いつきません。やはり難しい。役に立たず申し訳ありません
とんでもない。一緒になって考えてくれるだけでも心強いよ
ただ、極めて個人的な意見ですが、冒険の書を『消す』方法が正解であることが望ましいですね
シャクだからですよ。高みから定められた運命のままに流されるなど、我慢なりません
相手はあるいは万物の神かも分かりませんが、少なくとも冒険の書というギミックに関しては一矢報いたいところです
はは。賢者は冷静に見えて、結構根に持つタイプなんだな
ああその通りだ。オレもどちらかといえば、冒険の書を『呪縛』ととっている
何度も何度も同じこと繰り返す羽目になって、いったい何人の
冒険の書は、『消す』。まずはその方針で思いつく限りの総当たりをかけてみよう
はい、私もできる限りの助力に努めます。何かあったらいつでもご相談を。……では、私はそろそろ眠ります
賢者。お前なりの気遣い、確かに受け取った。ありがとうな
【町の外】
だから筋肉痛になったり風邪引いたり寝不足になったりするんだよバカ
いやー明日がついに最終決戦だと思うと、身体を動かさずにはいられなくてな!
気持ちは分からんでもないが、お袋に孝行してやりたいんだろ? なら、なおさら無理をしちゃダメだ
そうか……そうだな! なら寝るか! あと少し魔物を倒したらな!
しょうがない熱血バカめ。……行くぞ。少しだけ付き合ってやる
身体動かしたら、少しは寝つきもよくなるだろ。それにしても戦士のヤツめ、なかなか憎めないぜ
痛っ! この! 跳ね回りやがって! そらカウンターだ!
昔はこんなスライム集団にも苦戦させられていたな……
勇者! スライムは飛び上がっているときが絶好のチャンスだ! この!
そうそう、戦士がそれを教えてくれるまでは、ただがむしゃらに追いかけてたな
スライムは飛び上がっているときが無防備だから、その瞬間を見定めれば……
【翌朝・王の間】
――
だーかーら! 今日は魔王を倒しに行くんじゃなかったのかー!?
スライムが一直線にピョンピョン飛び跳ねて、進んでいくイメージ
スライムを冒険の書に見立てると、着地ごとに新しい記録を刻んでいく
呪縛を解くために、オレはそのスライムを倒さなければならないが、とどまっているスライムをやっつけようとしても
直前にいた場所に一歩引っ込められて倒せない。まあ厳密には違うが
肝心なのは、スライムを確実に仕留めるには、飛び跳ねている瞬間を攻撃すればいいということ
そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
冒険の書は 跡形もなく燃えつきた!!
ぼ、冒険の書? なんじゃそれは! ワシはそんなものは知らぬぞ!
王様、まだ魔王は倒されていないのですよ。冒険の書の記録をお願いします
わ、訳の分からぬことを言うない! それよりいきなりメラを放つとはワシが何かしたか!?
……多分、これが唯一ループを脱出する方法だったんだ……
――
つまり……時の保存書で新たに記録を上書きする瞬間だ
最後に記録した時点と、新しく記録する時点の境目ということは、すなわち……
なるほど。どこにも時間を保存する点が存在しない可能性がある
そこを射抜く。その瞬間もし、賢者の言うとおり時の保存点が存在しなかったとしたら、どうなる?
『過去の冒険の書』という存在もありませんから……おそらく因果関係は断ち切られ、完全にこの世から消滅しますね
そう、完全に呪縛から解き放たれる。だからあの時みたいに世界がおかしくなったりしなかったんだ
ああいやこっちの話だ。それより、後は魔王を倒しに行くだけだ
それ! それだよ! やっと俺にも分かる言葉が出てきた!
ま、魔王を倒しに行くだけ、ですか。私たちはまだ会ったこともないのですが……
大丈夫だ、もう何度も戦って勝っている。あとは消化作業みたいなもんさ
――
【魔王の間・扉】
事前に渡した魔王のデータ、確認したろ? 取るに足らない相手だよ
勇者さんの言うとおりでしたら願ったりの展開ですが……少し気がかりが
冒険の書はこの世から消えてしまいましたが、もしそのお陰で本来守られている一面があったとしたら
【魔王の間】
えっ? 勇者に決まっているだろう! お前を倒しにきたんだ!
魔王? 余は……魔王……。魔を統べる王……。……そうか……。……
ま、待て! そうか……冒険の書がなくなった影響か……
そうか。余は魔王なのだな! 余は、魔族の王!! 魔族に仇なす人間共を滅ぼす魔王!!
戦士の攻撃!
魔王は剣を受け止めた!
魔王の攻撃!
戦士は衝撃とともに壁に叩きつけられた!
な、なんだこいつは……! オレの知っている魔王じゃないぞ!
くそっ! 賢者はバイキルト、僧侶は回復を軸にフバーハを! 戦士、立てるか!
僧侶はフバーハをとなえた!
賢者はバイキルトをとなえた!
魔王の指先から凍てつく波動がほとばしった!
魔王は呪文の効力を全て消し去った!
魔王はこごえる吹雪を吐いた!
魔王ははげしい炎を 吐いた!
魔王はイオナズンを唱えた!
勇者はベホマズンを唱えた!
パーティーの体力が回復した!
まるで枷が外れたような強さだ……これが本来の魔王の力なのか!?
ひるむな! 戦士は攻撃、僧侶は回復、賢者は補助を軸に立ち回れ!!
魔王の攻撃! 戦士はダメージを受けた!
魔王の攻撃! 戦士はダメージを受けた!
魔王の攻撃! 戦士はダメージを受けた!
ぐぼっ! こっ、これしきでこの野郎おおおおああああっ!
戦士の攻撃! 魔王にダメージを与えた!
みっ見てるか親父! あんたの息子はバカだけど、遺言くらい守れるんだぜ!!
ほら勇者お前も加勢しやがれ! 二人で一太刀ずつ浴びせるんだよ!
戦士……もしかすると、今やお前の方が勇者なのかもしれないな
僧侶はベホマを唱えた!
戦士の傷が回復した!
魔王の攻撃!
勇者は僧侶をかばった! 痛恨の一撃!
勇者は大ダメージを受けた!
僧侶はベホマを唱えた! 勇者の傷が回復した!
行くぞ戦士、援護しろ! 賢者はそのまま補助を徹底! ここから押し返すぞ!!
魔王はこごえる吹雪を吐いた!
魔王ははげしい炎を吐いた!
魔王はイオナズンを唱えた!
魔王の攻撃!
魔王の攻撃!
くそっ規格外の猛攻だ……今まで戦ってきた魔王はなんだったんだ……
規格内の魔王だったんですよ。勇者さん視点では、さしずめ冒険の書の亡霊といったところでしょうか
賢者はベホマラーを唱えた!
パーティーの体力が回復した!
ですが勇者さん、好機です。いま魔王は攻撃ばかりに専念しており、凍てつく波動を使ってきません
賢者はバイキルトを唱えた!
勇者の攻撃力が2倍になった!
勇者さんの知らない未来を勝ち取るのでしょう。後方支援は任せてください
――
魔王はこごえる吹雪を吐いた!
魔王はイオナズンを唱えた!
魔王はイオナズンを唱えた!
魔王ははげしい炎を吐いた!
魔王の攻撃! 魔王の攻撃!
僧侶はベホマラーを唱えた!
賢者はベホマラーを唱えた!
勇者の攻撃!
戦士の攻撃!
勇者の攻撃!
――
ハァ……ハァ……見ろ! 魔王のヤツ、息が上がってるぜ!
しかし我々も消耗しています。魔力もアイテムもジリ貧です
そう、ここで倒れたら……全滅したら……おそらくもうオレ達に再起の機会はない
オレ達も……世界も終わりだ。何としてもこの場で果たし遂げなければならない!!
――
勇者の攻撃!
会心の一撃!!
魔王を倒した!!
……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!
間違いなく今まで遭った中で最大の強敵でした。しかしこれで
グオオオオオオオ! オノレ……ニンゲン……余ハ……余ハ……
!? ま、まずい! 戦士、一緒に追撃だ! 形態が変わる前に――
魔王の姿が変貌していく!!
真・魔王が現れた!!
真魔王は仲間を呼んだ!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
魔物の――
皆さん! 少しの間だけでいいです! 時間を作ってください!
分かった! 僧侶、頼んだぞ! 残った三人は応戦だ!
おおお……力が……力が溢れてくる……来るがよい!!
戦士の攻撃!
真魔王は剣を受けとめ、その刃を折った!
真魔王はかがやく息を吐いた!
真魔王の攻撃! 真魔王の攻撃! 真魔王の攻撃!
戦士は死んでしまった!
魔物の攻撃! 魔物の攻撃! 魔物の攻撃!
まだです……いま……私の持ちうる全ての魔力を注いでいます……
必ず開けてくれ! 賢者、僧侶の援護はできないのか!
負の魔力に満ちた扉です。聖なる力に長けた僧侶さんの方が適しています
賢者はメガンテを唱えた!
自己犠牲の爆発が 魔物の群れを一掃した!
賢者は死んでしまった!
私はいいです……もう、疲れました。……勇者様だけでも……勇者様……
この魔王の間を、この魔王城を、この世界から逃げられると思ってか?
絶望せよ。お前の長い旅もここで終わりだ。我が魔力によって滅びるがよい
今思えば冒険の書のお陰で、魔王はオレ達が打倒し得る強さに抑えられていたんだ……
……やはり冒険の書を消し去ったのは間違いだったのか……?
オレは延々とループに飲み込まれていた方が正しかったのか……?
平和な日々を得たいなんて……高望みだったのか……?
魔王の間の扉が開かれた!
兵士の集団がなだれこんできた!
兵士の集団がなだれこんできた!
兵士の集団がなだれこんできた!
我々のみならず世界各地の兵団が、続々と勇者殿の応援へと駆けつけております!
『勇者が魔王を討ち果たす』という伝承など、誰のどんな権限で決め付けられたのでしょうか!
勇者殿に丸投げするわけにはいきません! 我々も戦います!!
蘇生や魔力回復などの貴重な道具を、数多く持ち寄りました! 優秀な人材も集結しております!
さあ勇者殿! まだ力を振り絞れるなら、我々と共に――
何ゆえ……何ゆえにお前達は、己が使命を見出せるのだ……かくも克明に……
余は数多の眷属を従える魔王……万物の魔を統べる唯一……
真魔王は仲間を呼んだ!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
\オオオオオオオーッ/
まずは陣形を固めましょう。いったん補助呪文をかけ直します
まさかこんな流れになるとは思わなかったが……これで負ける気がしない!
余は倒れる訳にはいかぬ……余という存在ある限り……
真魔王はベホマを唱えた! 真魔王の傷が回復した!
真魔王は仲間を呼んだ! 魔物の群れが現れた!
真魔王は仲間を呼んだ! 魔物の群れが現れた!
それがどうした! みんなこれが最後だ、全力で行くぞっ!
真魔王は仲間を呼んだ!
魔物の群れが現れた!
魔物の攻撃!
兵士の攻撃!
兵士の攻撃!
勇者の攻撃!
戦士の攻撃!
真魔王の指先から凍てつく波動がほとばしった!
賢者はバイキルトを唱えた!
僧侶はフバーハを唱えた!
兵士は倒れた!
魔物を倒した!
兵士の攻撃!
真魔王はかがやく息を吐いた!
真魔王の攻撃!
真魔王はイオナズンを唱えた!
勇者はベホマズンを唱えた!
兵士の攻撃!
魔物の攻撃!
魔物を倒した!
賢者は祈りの指輪を使った!
僧侶はスクルトを唱えた!
魔物の攻撃!
兵士の攻撃!
真魔王はかがやく息を吐いた!
真魔王はかがやく息を吐いた!
戦士の攻撃! 会心の一撃!
賢者はベホマラーを唱えた!
勇者の攻撃! 会心の一撃!
――
戦士の攻撃!
戦士の攻撃!
賢者は○○を唱えた!
賢者は○○を唱えた!
僧侶は○○を唱えた!
僧侶は○○を唱えた!
勇者の攻撃!
会心の一撃!!
ぐ……愚問か……ふっ……不思議なものだ……何も……
真魔王を倒した!!
見ろ! 魔王が! 勇者殿が魔王を討ちとったんだ!!
\オオオオオオオーッ/
……今度こそ、終わったのですね。私たち……今度こそ本当にやりとげたんですね!
生涯使うつもりはなかった自己犠牲呪文を私に使わせるほどの難敵でした
っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!
魔王もまた『犠牲者』だったんだ。あんな目には遭ったけど、全てが終わった今となっては……
世界中の誰もが喜んでも……オレだけはヤツに同情するよ
――
【王の間】
心から……心から礼を言うぞ! そなたこそ真の勇者じゃ!!
そなたのことは、人々の間で永遠に語り継がれてゆくであろう!!
さて、今宵は盛大な祝賀を開こうぞ! 勇者への褒美もすでに考えておる!
この度の褒賞は、わたしの仲間と、魔王城へ攻め入ったすべての兵士に分け与えください
わたしめには僭越ながら、たった一つの望みさえ叶えて下されば結構です
新たな発見を重ね、学術を深め――世の文明を次なる域へと進めてください
それが今におけるわたしの、生涯の望みへと繋がります。どうかなにとぞ、お願いします
なんと無欲な! そなたの望み、しかと聞き入れたぞ! 何か困ったことがあればいつでも申すがよい!
――
そうだ。魔王を倒したことで、また新たな目的ができた
結局不透明のままだ。このままオレの中だけの過去に埋もれるのは気に入らない
人に役割を与える? いたずらに時間をループさせる?
魔王討伐後に共に過ごした、別の未来の仲間たちはどうなった? 魔王の無念は蚊帳の外か?
神のつもりか。もしくは神そのものなのか。どちらが相手でも、このまま収まらせる訳にはいかない
まだやることが残っているのでしょう。決して邪魔はいたしません、どうか私もお供を
悪いが俺は、これからお袋を助けにゃならんからついていけねえぜ!
だが、困ったときはいつでも頼ってくれ! 俺たちは生涯の仲間だぜ!
勇者様、会場に戻りましょうっ。みんな待っていますよっ
私も賛成です。例えば、何かを大衆に伝えるとするなら、今が好機ではないですか?
とりあえずしばらくは、念願の平和な世界に落ち着くとしようか
TRUE END