SS 勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」①

投稿日:2017-09-05 更新日:

―魔王城・王室―
ザシュッ!

魔王
ぐっ、しまった……!?(ヨロッ)

勇者
弱いな……。拍子抜けだぞ魔王

勇者
お前を倒すためだけに戦い続けて、やっとここまで来たってのにさ

魔王
なめるな……!(ブンッ)

勇者
……(ヒョイ)

勇者
このままこいつを倒したら、俺はもう普通の人間に戻るのか

勇者
魔王を倒した後は、……また戦いに駆り出されるんだろうか

勇者
…………俺は

勇者
俺は、魔王を倒して何になるんだ?

魔王
どうした、勇者……! まだ、勝負は終わってないっ……!

勇者
今までなら、少なくとも一人で自由に暮らしてきた。だけど、魔王を倒したら最後、騎士になって、王の下で延々と働かされるだけ

勇者
そんなの、魔王を倒さない方がいいじゃないか

勇者
……俺、勇者になってから、何かいいことあったかよ?

勇者
せいぜい、神の加護で何度殺されても生き返れたことと、歳をとらなかったこと……

勇者
ん?

魔王
…………?

勇者
勇者である限り歳をとらないってことは……魔王倒さなきゃ、俺は不死身ってことか?

魔王
は……?

勇者
ってことは、魔王を倒したことにして、どこかに監禁しておけば、俺は永遠の命が手に入る! 王達もそれで満足する!

魔王
何を訳のわからないことを! お前は勇者だろう! 勇者なら、私を倒して見せろ!

勇者
うるさいな(パチン)

魔王
っ? 体が動かない!?(バチバチッ)

勇者
そりゃ、束縛魔法かけたし

魔王
そんな……魔王である私が、束縛魔法なんかに!

勇者
術者のレベルが違いすぎるってことだ

勇者
このまま、俺の隠居予定場所だった山小屋にでも閉じ込めておくか

魔王
ちょ、ちょっと待て! お前勇者だろう! まともに私と勝負しろ! おい――!(シュン)

勇者
これで魔王討伐完了だ

―城内―
王様
――おお、よくぞやってくれた勇者よ! 皆の者、今宵は宴じゃ!

王様
たった一人で、よく魔王を倒したものだ。そなたには、追々褒美をやろう

勇者
ありがたき幸せに存じます

ワイワイガヤガヤ
勇者
騒がしいな、まったく

勇者
……さて。俺の魔法から逃れられることは無いと思うが、魔王がどうしているか気になるな

勇者
舌切って死んでたらどうしよう

勇者
割と本当にその可能性が高い

勇者
どうせ途中で抜けるつもりだったし、構わないだろう。もう行くかな

勇者
さらば、故郷。良い思い出はまるでないけど、世話になったよ

―山小屋内―
魔王
…………っ(キッ)

勇者
お、生きてた生きてた

魔王
私を、一体どうするつもりなんだ?

勇者
言っとくけど、いくらお前が美人でも、何もするつもりないから。ただ生かすだけだ

魔王
……お前の、永遠の命とやらの為か

勇者
そうだ。女神の加護が続く限り、俺は不老不死。そしてその加護は、俺が勇者で在る限り続く

勇者
勇者で在るには、魔王が必要だ。だから、お前を生かした

魔王
屑め……。自分さえよければ、それでいいのか

勇者
おいおい、そこまで言う理由は無いだろ。別に、ただ俺とお前が消えたというだけのことだろう?

魔王
勇者と魔王、人間と魔族の統率者を同時に失い、世界は混乱するはずだ

魔王
勇者がいないとなれば、再び魔族が集まり、戦争を仕掛けるかもしれない

魔王
統率者のいない戦争は、泥沼化し、双方に壊滅的な被害を与える……

魔王
その可能性が、非常に高い

勇者
お前と俺にとっちゃ悪い話じゃないだろう

勇者
うまい具合に戦争が激化すれば、俺やお前のこと、戦わせる奴は皆いなくなる。敵同士、世界の滅亡でも見届けようじゃないか

魔王
お前っ! 今まで守ってきた民を、見捨てるというのか!?

勇者
確かにお前は、本当に今まで民を守ってきたんだろうな。だが、俺は今まで、一度たりとも民を守ったことなんてない。守ってきたのは自分自身だ

魔王
屑が……!

勇者
そりゃおかしいだろう。命と力は本来自分の為にある。人間だけがそれを非難する

勇者
お前、会ったときから思ってたけど、魔族より人間に近いよな

魔王
この鎖を解け……! このまま魔族が戦い続けるのを放っておけるか!

勇者
それはできない

勇者
魔王は一応殺したことにした。今更ひょっこり出てくるのはおかしい

勇者
そしたら勇者を探し出すに違いない

勇者
ほら、魔王と共に消えればさ、『勇者様は天界に行ったんだ』とか馬鹿げた妄想で片付けてくれるだろうし。奴ら、伝説が好きだからな

勇者
『魔王を討ち取った勇者は、女神様に天界へと招かれ、いつまでも幸せに暮らしました』……俺の国に伝わる有名な絵本さ

勇者
お前が民を守りたいのは分かったよ。だがお前は敗者だろう? まだ生きているとはいえ、魔族が負けたというのは事実。なら例え滅ぼされたって文句は言えない

魔王
ぐっ……。私に、魔族が死にゆくのをじっと見ていろというのか!?

魔王
私は、魔族の王だ! 生きている限り、民を守る義務がある!

勇者
お前と俺と、立場が逆だったら綺麗な物語だったろうなぁ

勇者
だけど、俺が勇者で勝者、お前が魔王で敗者なんだよな

魔王
ううぅっ……

勇者
それはそうとその鎖、俺が作ってみた魔法道具なんだ。縛った者の魔翌力を奪う便利な鎖だ。その様子だとしっかり効いてるようだな

魔王
……だから、このような鎖でさえ壊せなかったのか

勇者
それと、燃費も悪くなる。魔族は、水さえあればとりあえずは生きてられるんだっけ?

勇者
これからは何か食事をしなきゃ生きていけなくなる。今、食事を作ってやるよ

魔王
…………

―――
勇者
ほら、出来たぞ。といっても簡単な野菜炒めだが。まあ食べてみてくれ

魔王
……いただこう

勇者
へぇ

魔王
なんで意外そうな顔をする?

勇者
てっきり、『敵の手料理を食すくらいなら飢えて死ぬ!』とか言うと思ってたから

魔王
ふん。与えられた食事を正しく食すのは、勇者云々ではなく生命に対する礼儀だ

勇者
本当、お前魔王らしくないな

勇者
どうした? 食べるなら早く食べろ。冷めるぞ

魔王
……食べられない(ジャラ)

勇者
ああ、めんどいな。じゃあ俺が食べさせてやる。口開けろ

魔王
どこの世界に敵から料理を食べさせてもらう奴がいるっ!(ジャラジャラジャラ!)

勇者
うるさいな。そもそも敵の手料理を食べるんだから、それ以前の問題だろう

魔王
うっ、ぐぅ……

魔王
…………っ(ハムッ)

勇者
あ、かわいい

勇者
って、何を考えてるんだ俺は……

魔王
はぁ……(ガク)

勇者
ようやく全部食べきったな

魔王
食事をするのに、こんな屈辱と疲労感を伴ったのは初めてだぞ

勇者
貴重な体験だな

魔王
馬鹿にするなっ!

勇者
……さて、もう寝るかな。お前も早く寝ろ

魔王
ま、待て!

勇者
なんだ?

魔王
風呂は? 風呂はここにないのか?

勇者
……お前、俺が食事を出したからって自分の立場を忘れてないか?

魔王
そういうわけでは、ない……

勇者
……まあ、そうはいっても、これから一緒に生きていく身、清潔にしておかないと確かに衛生上悪いな

勇者
ほら、魔法で体を清潔にしてやる。これでいいだろ(パァァァ)

魔王
お前に洗われているようで、愉快ではないな……

魔王
それに、やはり湯に浸からないと……いや、そのような立場ではないことくらい、弁えている

勇者
さあ、もう遅い。早く寝よう

魔王
…………(ジャラ)

勇者
睨むなよ。毛布くらいならやるから

魔王
いや、お前が今寝ているそのベッド……

勇者
お前のベッドを魔王城から持ってきた

魔王
どれだけ嫌な性格をしているんだ、お前……

勇者
いやあふかふかだ(バフッ)

勇者
お前、いつもこんなふかふかのベッドで寝てたんだな

魔王
ああ。少なくとも、こんな鎖に縛られて寝ることはなかったさ

勇者
俺は、旅に出てからはほとんど野宿だった

魔王
……?

勇者
仲間も居ないから、魔物にいつ襲われるかと怯えながらな。実際、俺が死んだ理由で最も多いのは夜襲だった

勇者
お前がいなければ、ずっとベッドで寝ることができた。襲われる心配もなく

勇者
これは、そのささやかな仕返しだよ

魔王
理不尽極まりないな。お前と私を戦わせたのは、お前達の王だろう

魔王
王に逆らえる程の器を持っていないから、私に八つ当たりしているだけなのではないか?

勇者
違う。魔王と勇者が戦うのは、王とか女神とか、それ以前に、宿命なんだ

魔王
宿命? その宿命を背負うことに、何の意味がある?

勇者
意味はある。平和には、犠牲が必要なんだよ。お前も分かっていて、俺と戦ったんじゃないのか? だからいつの時代も、勇者と魔王、どちらかが犠牲になるんだ

勇者
そうやって、何とか今まで、俺達人間とお前達魔族は生き残ってきた

勇者
勇者が魔王を憎み、苦しめるのは当然のことだ。そうしないと人間と魔族は生き残れない

勇者
まあ、人間と魔族が滅ぶかもしれない選択をした俺が言っても説得力がないけどな

勇者
……無駄話が過ぎたな。魔王、おやすみ

魔王
…………

勇者
無視か。まあ、それくらい分かってたけど

魔王
…………(スー)

勇者
なんだかんだ言っておいて、意外と寝るの早いな……

チュンチュン
勇者
うーん、いい朝だ。貴族気分だな(フカフカ)

勇者
さて、魔王の方は

魔王
…………(スー)

勇者
朝の日差しと相まって、封印された魔王みたいだな

勇者
……まんまじゃないか

魔王
……ふあ(パチ)

魔王
ここは、どこだ?

勇者
おはよう魔王。朝は弱いみたいだな。状況は思い出したか?

魔王
…………!!

魔王
何を言っている、お前に捕らえられた屈辱、例え一瞬でも忘れるものか!(カッ)

勇者
一瞬で表情変える辺り、流石魔族の王だな

魔王
なあ、勇者よ

勇者
何だ、魔王?

魔王
私がお前を憎むように、お前も私が憎いのだろう?

勇者
そうだな

魔王
それなら、何故共に暮らす必要がある? 私は、一秒たりともお前と共にいたくはないが

勇者
万が一にもお前が逃げないように、だ。当たり前だろ

魔王
……そう、か。そうだろうな

勇者
何だ、『お前に惚れたから』とでも言うと思ったのか?

魔王
違う。何かもっと、別の理由がある気がした……私の深読みだったようだ

魔王
しかし、それなら何のためにお前は、私を生かしているのだ?

勇者
どういうことだ?

魔王
永遠に、憎き相手と一緒に居るということだろう? 私なら発狂する

魔王
そこまでして生きることに執着して、何がしたいのだ?

勇者
……どうなんだろうな。ただ、永遠の命というのは魅力的じゃないか?

魔王
私は、そうは思わない……。永遠の命など、考えるだけで恐ろしい

魔王
生きるのが楽しいから、生きたいと思うのだろう。お前は今、楽しいのか?

勇者
…………楽しくは、ないな

魔王
お前は、生ける屍なのだな。ただ虚ろに生に執着するだけの、屍

勇者
言いたいだけ言えばいい。お前の人生論なんて聞きたくもない

勇者
食糧を買ってくる。暇だろうが、封印の解除でも頑張っててくれ

魔王
朝から皮肉が好きなようだな、お前は……! 後悔するなよ

勇者
死ぬつもりはないようで良かった。それなら安心だ。行ってくる

魔王
くそっ……こんな鎖なんかに……!(ジャラジャラ)

ガヤガヤ
勇者
これくらいあの王国から離れた街なら、勇者の顔も知られてはいないだろう

勇者
さて、買い物を済ませるか

商人
らっしゃい。何をお求めだい?

勇者
食料を一か月分ほど

商人
……山籠りでもするんかい?

勇者
まあ、そんなとこです

商人
ならこっちの毛皮も買っていきな。それとこっちの――

―――
勇者
……結構な買いものだったが、当分は大丈夫だろう

勇者
じきに自給自足できるようにならないとな。歳をとらないのに街へ行けば、不気味に思われるだろうし……

勇者
朝食ができたぞ

魔王
いただこう


勇者
昼食ができたぞ

魔王
一日三食食べさせるのか? 何だか太ってしまいそうだ……

勇者
魔王の癖に体形を気にするのか?

魔王
私だって女だ

勇者
太ればいいさ。そっちの方が悪役らしい

勇者
夕食ができたぞ

魔王
勇者、お前はいつも何をしているんだ?

勇者
とりあえずは、畑を作っている。いやはや、一から作るのは面倒だな

魔王
魔法は使わないのか?

勇者
分かってないな。自分でやるからいいんだ、こういうのは

勇者
日が、暮れたな

勇者
こうものんびりしていると、一日が経つっていうのは、意外と長いものだ

勇者
さあ、そろそろ寝ろ。どうせ何もすることはないだろ

魔王
……そうだが。さすがに、少し動きたい

勇者
文句言うな。どちらにしろ、俺はもう寝るぞ

魔王
…………(スー)

勇者
寝てる

ザァザァ


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