勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」⑩

投稿日:2017-09-10 更新日:

チュンチュン

魔王
ん、朝か

勇者
(シーン

魔王
おい、勇者? さすがにそんな冗談、笑えないぞ

勇者
分かってるよ……ただ、久々すぎて、老人の身には堪える……

魔王
あはは。すまなかったな

魔王
今日の朝食は、私がつくろう

勇者
ああ、頼む……

魔王
うーん。この野菜、古くなってる。しょうがないから卵で何か適当に

勇者
なんていうか、魔王らしくないなぁ……

勇者
なぁ、魔王

魔王
なんだ、勇者?

勇者
俺さ、たぶん、もうそんな長くないと思う

魔王
…………っ(ギュッ

勇者
抱きつくなよ。……それで、鎖を外した方が良いかなって

魔王
何故だ?

勇者
俺が死んだら、鎖を外す人がいない。今のうちに外しておくべきだろう

魔王
お前が死んだとしても、私はお前の傍に居る

魔王
死に場所は一緒だ、勇者

勇者
それで、本当にお前はいいのか?

勇者
俺が死ねば、お前はここで、一人暮らすことになる

勇者
鎖を解いて、俺がお前を魔王城に送れば、余生を楽しく過ごせるだろう

魔王
お前がいない余生を楽しくなど、過ごせない

魔王
構わないよ。私は、この身が朽ちるまでここにいる


魔王
勇者。今日の具合はどうだ?

勇者
……ああ。問題ない

魔王
さて、と。夕食の時間だ。口、開けて

勇者
済まないな、……いつも、いつも

魔王
いいんだ。お前が生きてくれるだけで、私は幸せだから

勇者
……魔王。お前は、綺麗だなぁ

魔王
褒めても何も出ないぞ?(ニコニコ

勇者
そのさびきった鎖は、……お前には、似合わないよ

魔王
ダメだ。私は、例え鎖がちぎれても、お前と一緒に居るからな

勇者
なあ、魔王

魔王
なんだ、勇者?

勇者
俺は、怖いんだ

魔王
なにが? 何が怖いというんだ、勇者

勇者
……老いが、怖い。自分が自分で無くなっていくのが、怖い

勇者
死ぬのが、怖い

勇者
はは。……お前と出会っていなければ、こんな老人になってまで命を惜しむことはないだろうが

魔王
死ぬのが怖いのは、当たり前だよ。どれだけ年老いたとしても

魔王
さて。食器を片づけてくるよ(スッ

魔王
……っつ(クラ

バタッ
勇者
魔王っ!?

魔王
あはは、急にめまいがしてな。なに、大したことは無いよ

勇者
……そうか。なら、いいんだが

魔王
ごめんな。食器、割れてしまった

勇者
構わんさ。それより魔王、怪我は?

魔王
ない。心配しすぎだ、私はこれでも、魔王なんだぞ

勇者
……そうだよな。ごめん

魔王
皿の破片が刺さって、痛いけど……

勇者
なあ、魔王

魔王
なんだ、勇者?

勇者
一日、一日をな、数えてみているんだ

魔王
……いつから?

勇者
いつからかな。今、332回数えたから、332日前からか

魔王
332日前? 何かあったか?

勇者
いや、何も無い。何も無いけど、ふと思いついて、それからずっと数えている

魔王
ふむ。良く分からないな

勇者
俺はずっと寝たきりだ。何もしていない

勇者
寝たきりでそんな日々を送って、俺は一体いつまで生きているのかと、ふと気になった

勇者
それから数えてる。もう一年が経とうとしているな。少なくとも一年以上、俺はこんな無意味な生活を送って、それでも生きている

魔王
生きていることに意味はあるはずだ。無意味な生などない

勇者
詭弁だよ。事実、俺はこうして魔王に世話をしてもらって、ただ生きているだけ。これのどこに意味があるんだ

勇者
……俺は生きていてもいいのか、一日一日を数えながら、考えている

魔王
そんなくだらないことで悩んでいるなら、早く私に言ってくれればよかったものを……

勇者
でも、言ってどうなることでもないだろう?

魔王
私は勇者に生きていてほしい。生きる権利など、意味など、それだけでいい。そうだろう?

魔王
知ったように感傷的にものを考えるから、人間はそうやって無駄に悩むのだ。その上大半は、自分に酔うだけで、結局何が言いたいのか分からない

勇者
…………まあ、その通りだよな。でも、人間は悩む生き物なのさ

魔王
ほら、また自分に酔ってる(クスッ

勇者
……じゃあ魔王も何かに悩んでみるか? 答えの無いものを悩むのは、人間じゃなくても楽しいと思うぞ。幸い、時間は余るくらいにあるし

勇者
例えばだな、言ってしまえば、俺たちはこの広い世界に生まれて、ただ生きて、死んでいくだけの存在だ。それなら、俺たちは何をするべきなんだ? 何をすれば、充実した人生といえる?

魔王
また、いかにも面倒な質問だな

魔王
……そうだな。何かをひたむきに愛せば、人生は充実すると思うな

勇者
何かをひたむきに、愛す?

魔王
ああ。人間でもいい。真理でもいい。もっと素朴な、異性でもいい。もしくは、自分だっていい。とにかく何かを愛することだ

勇者
何でそう思うんだ?

魔王
少なくとも私はお前を愛し始めて、人生が豊かになった

勇者
う、……不意打ちなんて卑怯だ

――――
勇者
……しかし、魔王はどんな質問を投げかけても揺るがないな

魔王
当たり前だ、何年生きていると思っている

魔王
今さらお前なんかの言葉で私の生き方が揺らぐものか

勇者
そういえば、俺よりずっと年上だったな、お前は……

魔王
……なんだその意外そうな顔は

勇者
いや。お前はいつまでたっても綺麗だからさ

魔王
くっ、……カウンターされるとは


魔王
おはよう、勇者

勇者
……魔王

魔王
どうした、勇者? どこか悪いのか?

勇者
……見えない

勇者
目が、見えないんだ……

魔王
ほら、口開けて

勇者
……(パク

魔王
……(ニコ

勇者
……。もう、お前の顔を見ることも叶わないだな

魔王
でも、私はここにいるよ

勇者
それは、分かっているんだけどさ

勇者
魔王

魔王
なんだ、勇者

勇者
俺は、お前に死んでほしくない

魔王
それは、私も同じだよ

勇者
そうじゃない。俺は、もう寿命が近い。もう長くもないだろう。だけど、お前は、ここで死ぬべき命ではないはずだ

勇者
……もっと生きることができる命だ。それを、何もここで終わらせることはないだろう?

魔王
それなら、……私は、どこかへ行ってしまった方がいいのか?

勇者
……本当は、嫌だ。お前と一緒に居たい。その気持ちでいっぱいだ

勇者
俺は、こんな老人にもなって、なんて自分勝手なんだよっ……。ここに来て俺は、お前の為に、お前の鎖を外せないんだ……

魔王
それでいいよ。自分が死んだ後を考えるのは、自己満足でしかない

魔王
正直でいてくれ。自分勝手でいてくれ。それを非難する者なんて、誰もいないのだから

魔王
……なあ、勇者

勇者
なんだ、魔王

魔王
隣で、寝てもいいかな

勇者
構わないよ

勇者
なあ、魔王。もういいだろう、鎖を外せ

勇者
どうしてもここで暮らすというなら、俺が作った畑と牧場を好きなように使って構わない

勇者
そうして、ふと帰りたくなったら、魔王城に帰ればいい

勇者
そのくらい、自由になってくれよ。そうじゃないと、俺が幸せに死ねないだろう

魔王
…………

魔王
勇者、実はお前に、ずっと嘘をついていた

勇者
……どんな?

魔王
私は、人間の血が濃い

魔王
だから、他の魔族とは違い、私は魔力で若さを保っていたんだ

魔王
――そして今、私の残り少ない魔力は、完全に尽きた

魔王
意外と遅かったけれど。はは、やはり魔王の魔力は伊達ではないな

勇者
お前、それってつまり……!

魔王
ああ。見えないだろうけど、私の体は今、急速に老いている

魔王
だから、……私も、もうすぐ死ぬのだと思う

魔王
実は、勇者の目が見えなくてよかったと、少しだけ思ってるんだ。すまない

魔王
こんな弱々しい私を、あまり見てほしくないから……

勇者
だったら、何でお前、鎖をつけるなんて……!

魔王
最初から言っていただろう? 私は、『お前と一緒に死にたい』と

勇者
なんでっ……、なんで、こんなこと!

魔王
こうも言った。『私は良い奴などではない』とな。私は自分勝手だ、それくらい自覚している

魔王
……楽しかったよ。残り少ない命と分かってからの、余生は

魔王
一日が違うものに見えた。一日が輝いているのを感じた

魔王
短いけれど、でも、とても私の一生は充実していた。お前と同じようにね

勇者
今なら、まだ間に合う……っ! 鎖を壊せば、お前の魔力は元通りに……

魔王
やめてくれ(ギュ

魔王
言っただろう。お前と共に死にたいんだ

魔王
……私の最後のわがままを、聞いてくれ

勇者
……魔王。そこにいるか?

魔王
ああ、いるよ

魔王
……勇者、私の声が聞こえているか?

勇者
ああ、聞こえるよ

魔王
そうか、よかった……

魔王
勇者。『愛しているよ』

勇者
はは……先を越されてしまった

勇者
俺も、魔王のことを愛しているよ

魔王
……魂というものがあるなら、もう一度巡り合おう

勇者
ああ。きっと、巡り合える

―魔王城―
トタトタトタッ
魔王
ねぇねぇ九尾!

九尾の狐
一体なんじゃ、魔王様

魔王
今ね! 私の体を『ふわっ』って何かが包んできたのよ!

魔王
優しくて力強い、何かがね、私を包んでくれたの!

九尾の狐
…………ほう。それは

魔王
分かるの! これだったのね、お母様が言っていた、『帰ってくる』って言うのは!

九尾の狐
……魔王の力が継承されたか

九尾の狐
ということは、魔王様は、もう

九尾の狐
――歴史は繰り返す、か

魔王
? どうしたの、九尾?

九尾の狐
……せめて、大きくなったこの子の顔を見せたかったのう、魔王様

きらら(管理人)
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