勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」②

投稿日:2017-09-06 更新日:

勇者
雨、か。晴耕雨読、今日は読書でもしてようかな

勇者
いや、耕すどころかまだ畑が完成してすらいないぞ

勇者
……やるか


魔王
…………む(パチ

魔王
勇者がいないな。もう外に出たということか

魔王
なんというか、あいつよりも起きるのが遅いのは、屈辱的だ

魔王
早く起きるようにしないと

魔王
……(ジャラジャラ

魔王
なんだか、この生活に慣れてしまいそうだ

魔王
あいつの考えが分からない

魔王
一日三食の食事はあるし、私に何をするわけでもない

魔王
嫌味なことを言ってくるのは別として

魔王
……ここから出ていく気を削ぐためか?

魔王
いや、どうもそのような気はしない

魔王
いやいや……どうであれ、あいつは私利私欲で私を監禁している

魔王
これを悪と言わずして何とする

魔王
変な考えはやめよう。あいつは、私の敵だ

魔王
策略にはまってたまるか

魔王
……外は雨か

魔王
こんな雨の中、勇者は畑とやらを作っているのか?

魔王
あいつの考えは分からない

魔王
……それにしても、一人だけというのは退屈だ

魔王
敵と一緒に居る時間も相当苦痛ではあるが、これはこれで辛いものがある

魔王
今まで必死に鎖を解こうとしてきたが、解ける気配がない

魔王
壁に縛りつけられて動けないし……せめて、手足が自由になれば


勇者
雨が冷たいな。風邪を引きそうだ

勇者
魔法じゃ、風邪は治せないんだよな。まったく、不便だ

勇者
怪我を治せて、体を清潔にできて、火も出せるのに

勇者
俺に、人間の体から病原体だけを精密に取り除く程の技術があるなら治るのかもしれないが

勇者
まあ、魔法で何でもかんでもできたら苦労しないか

勇者
雨も降っていることだ。ここらへんで止めておくか

勇者
急げ、急げ(バタン


勇者
魔王、ただいま

魔王
びしょ濡れだな。大丈夫か?

勇者
? 何で魔王が、俺の体を心配する必要があるんだ

魔王
…………反射的に言ってしまっただけだ

翌日
勇者
風邪を……引いた(ゲホッ

魔王
おいおい

勇者
だけど、大丈夫だ。慣れてる

勇者
今、食事を作るよ(ヨロリ

魔王
何も毎日食べなくても、私が死ぬわけではないのだろう……?

勇者
ああ、……そうか。それもそうだな

魔王
何なんだお前は……

勇者
…………

魔王
…………

勇者
何もすることがない

魔王
私は数日前から何もできることがない

勇者
出来ることと言えば、お前と問答するくらいだ

魔王
私はやりたくない

勇者
そうだな、確かに今は何か話すのも辛い

魔王
何故無理をしてまで私の嫌がることをしようとするんだ

勇者
お前が憎いから、だ

魔王
……。なら、何故私と共に暮らすんだ?

勇者
………………

勇者
……俺は、きっと人間の中で生きていけない

勇者
人間として暮らすには、俺は強すぎる

魔王
……?

勇者
不思議そうな顔をしてるな

勇者
確かに魔王がいくら強くても、魔族はついていくだろうな。いや、強い方がついていくだろう

勇者
だけど普通、人間は魔族ほど力の差が開かない。だから、開きすぎる力の差を恐れるんだ

勇者
俺を恐れない存在なんて……魔王くらいしか、いないんだ

勇者
まともに俺と暮らせる奴なんて、お前くらいしかいない

勇者
……俺は、ただ誰かと一緒に居たかった

魔王
っ……それなら、何故私の力を封印し、束縛するんだ

勇者
お前を苦しめろという、女神の呪いかな

勇者
……なんてな。俺もよく分からないんだ

勇者
もしかすると、ただ、お前という存在が怖かったのかもしれない

勇者
俺を恐れないのも、お前だけ。そして俺にまともな敵意をぶつけてきたのも、お前だけなんだ

勇者
俺は勇者という肩書だが、臆病者だってことは自覚してる

勇者
その上、寂しがりだ。……本当、勇者らしくないな。お前に、魔王らしくないなんて言えないよ

魔王
……勇者

魔王
勇者、今日は大人しく寝ていろ

魔王
その調子だと、言ってはならないことまで口に出してしまうぞ

勇者
……そうだな。今日の俺は、少しおかしいみたいだ

魔王
勇者、すまなかった

勇者
何故謝る?

魔王
風邪で弱ったお前から真意を訊き出すような、卑怯な真似をした

勇者
別に、謝ることはない。敵同士なんだから、当たり前だ

勇者
……魔王。俺はお前が大嫌いだ。お前がいなければ、俺はこんな辛い思いをせずにすんだんだからな

魔王
ああ。私もお前が大嫌いだ。お前の私利私欲で力を奪われ、監禁されたのだからな

勇者
それが分かっているならいいさ。おやすみ、魔王

数日後
勇者
ようやく全快したみたいだ

魔王
よかったな

勇者
空は快晴だ。ようやく畑仕事ができる

魔王
今後は無茶をしないようにするんだな

勇者
何故魔王に心配されなければならない

魔王
風邪よりももっと重大な病を持ってこられては、私もたまったものではない

勇者
そうか、気をつけよう。何にしてもお前が生きていれば俺も生きていられるのだから

勇者
そろそろ食料がなくなってきたな。買い出しに行くか

―街中―
勇者
……やけに物騒だな。兵士もたくさんいる

勇者
すいません、一か月分程の食料をください

商人
おう、またあんたか。ちょっと待ってな

勇者
しかし、物騒ですね

商人
ああ、そうなんだよ。実は最近、魔物が襲ってきたらしくてな

商人
どうも上級魔族らしいんだが、弱まってたみたいで、兵士にすぐ捕らえられたんだ

勇者
……なんで弱まってたのに襲ってきたんでしょうね?

商人
さぁ……

勇者
……うーん

勇者
確かに、この街の地下に強い力を感じるんだよな。それも結構強い魔族の

勇者
これが、商人の言っていた魔族なのかな

勇者
どうせ時間はあることだし、寄ってみようか


勇者
牢番には悪いが眠っててもらおう(パチンッ

牢番
……何だ? 急に、眠く……(バタ

勇者
さて、そこにいるのは誰だ

吸血鬼
一体何の用かしら?

勇者
君を助けに来た

吸血鬼
もう少し真剣な顔で言ってもらえると感動するんだけどなー

勇者
あちこち傷があるな。回復しようか?

吸血鬼
冗談やめてよ、私アンデッド族よ? 回復されたら浄化しちゃう

勇者
それもそうだ

勇者
俺は通りすがりの隠居だよ

吸血鬼
随分若い隠居様ねぇ

勇者
今の魔族がどうなっているのか訊きたい

吸血鬼
……答えたら出してくれるとか?

勇者
正直に答えてくれたらな

吸血鬼
やった! それなら何だって訊いてよ。私けっこー詳しいのよ

勇者
魔王って今、どうなってるんだ?

吸血鬼
さぁ? 死んだって言われてるけど、失踪した、とか本当は生きてるとか、噂はいろいろね

吸血鬼
個人的には、あの魔王様のことだから生きてると思うんだけど

吸血鬼
だから人間も気が大きくなってるのかな? このへん歩いてたら捕まっちゃったわ

勇者
なんだ、襲ったんじゃないのか……。というか、人間の街の近くを簡単に歩くなよ

吸血鬼
昼間に行ったのがまずかったわねー

勇者
お前吸血鬼だよな……?

勇者
あと、物騒な話は聞いていないか? 戦争とか

吸血鬼
魔王城では、将軍の龍人がなんか騒いでたわね。当分は動けないだろうけど

吸血鬼
牢番の話だと、王国は、魔王様が死んで、みんな結構お祝いモード抜けてないみたい

吸血鬼
まだまだ動くつもりがないとか

勇者
なるほど

吸血鬼
魔族の方も魔王様が云々で荒れてるからね。人間が残党狩りなんて始めたら、結構大規模な戦いになるかも

吸血鬼
まあ、先に仕掛けるとしたら人間の方だと思うわ

吸血鬼
他にはもう質問はないのかしら?

勇者
いや、もう無いよ

吸血鬼
そうっ。じゃあこれで出してくれるのね!(パァ

吸血鬼
あーでも、出れても行くあてがないなー(チラチラ

吸血鬼
あなたみたいないい男の家にでもお泊まりしたいなー(クネクネ

勇者
鬱陶しい

勇者
……お前、俺が怖くないのか?

吸血鬼
だいじょーぶよ、私、激しくても全然平気だから!

勇者
何の話だ! ……お前くらいの魔族なら分かるだろ、俺の魔力の量とか

吸血鬼
でも、優しそうじゃん。私を助けてくれるって言うし。どこが怖いの?

勇者
……それは、

吸血鬼
怖がられる理由がないのに、変な人だね

吸血鬼
そんでさー、どうやって出してくれるの?

勇者
そこで兵士が眠ってるし、鍵を取ってくる

勇者
……あー、めんどくさい(ジャラジャラ

吸血鬼
そのすっごい量の鍵、一個一個試すつもり?

勇者
そんなことしてられるか

吸血鬼
じゃーどうすんのよー!

勇者
こうする(グイッ

吸血鬼
あらら牢の格子が紙みたいに

勇者
吸血鬼、髪の毛を一本くれ

吸血鬼
えー、何に使うつもり? まあ、いいけど(プチ

勇者
ちょちょいっと(パァァァ

吸血鬼
へぇー、すごい! 私が二人に!

勇者
これで誤魔化せるだろう

―――
吸血鬼
ありがとねー! あなたのこと忘れない! ばいばーい!(バサバサ

勇者
達者でな。街の人に見つかるなよ

勇者
さて。俺も帰るとするか


勇者
ただいま、魔王

魔王
……む? 魔族の念を感じるな

勇者
ああ、ちょっと一人の吸血鬼とな

魔王
ほう。まあ感謝の念があるようだから気にしないでおこう

勇者
そんなところまで分かるのか。魔王ってすごいな

―魔王城・会議室―
龍人
魔王様が失踪して数週間

龍人
そろそろ、仕掛けるべきだと思うのだ

九尾の狐
龍人、何故そんなに戦争を急ぐ?

九尾の狐
どうあれ魔王様は負けたのじゃ。魔族は退くべきじゃろう

龍人
魔王様は生きておられる! ……おそらく、人間の城の地下にでも閉じ込められておるのだ

人間がうかれている今こそ、魔王様を取り返す機会……!

吸血鬼
ただいまみょーん(ガチャリ

……吸血鬼。何でお前はそんな軽いんだよ

吸血鬼
こんなんが四天王の中に一人はいないと、やってられんでしょ

吸血鬼
鬼ちゃん、りら~~~~っくす

龍人
吸血鬼ぃぃぃっ!! 貴様という奴は、場の雰囲気を壊すな阿呆め!

吸血鬼
はいはい龍人たんもりら~~~~っくす

龍人
はぁ……まったく

龍人
だいたい、今までお前どこに行ってたんだ

吸血鬼
ちょっとお散歩♪

龍人
はぁ……?

九尾の狐
助かったぞ吸血鬼。こいつら、戦争戦争とうるさいのじゃ

吸血鬼
九尾ちゃんもっふもふ。そうねー、戦争は嫌ね、私も

龍人
魔王様が生きておられるかもしれないのにか?

龍人
それに、今人間を襲えば、魔族の永遠なる繁栄が手に入るというに……!

吸血鬼
あんたには分からないだろうけど、私は人間が必要なの。ビバ人間なの

吸血鬼
そもそも私が率いてるアンデッド軍なんて人間いなきゃ生まれないんだから

九尾の狐
あぶらあげもできないし

……酒もできないか

龍人
お前らぁ! 私は人間のおこぼれなどもらうつもりはないぞ、人間と共存など!

吸血鬼
ほらほら、そういうわけよ。ともかく一旦やめましょう?

九尾の狐
そうじゃな。この不毛な会議はやめにするとしよう

龍人
まったく……。こいつらは魔族の繁栄を考えてないのか? なあ、鬼よ

うーむ、酒、酒が無いのは……

龍人
鬼ぃッ!!(ガタンッ

す、すまん

チュンチュン


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