勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」③

投稿日:2017-09-07 更新日:

勇者
朝だ。この生活にもだいぶ慣れてきたな

魔王
…………(スー

勇者
相変わらず寝ているな、魔王は

勇者
いつも思うけど、よく鎖に縛られているのに熟睡できるな

勇者
さて、食事でも作っておこうか

魔王
……(パチ

勇者
起きたか。食事ができているぞ

魔王
いただこう

勇者
召し上がれ

魔王
…………(ハム

魔王
ん? いつもと味が違うな

勇者
分かってるじゃないか。今日は畑で採れた野菜を使ってみた

魔王
ほう、いつの間にか完成していたのか

魔王
なあ、勇者よ

勇者
何だ、魔王?

魔王
ここに来て、もうどれくらい経つ?

勇者
半年はたつかな

魔王
そうか。もう、そんなに

魔王
皆はどうしているのか……

魔王
っそうだ勇者。戦争の話は聞いていないのか?

勇者
今のところ、大きな騒ぎは起きていない

勇者
ただ、本格的に戦争になるかどうかは、魔族の方にかかっているらしい

勇者
王国の方はもう満足している。魔王が死んだ気でいるからな

勇者
だから魔族が仕掛けるかどうか、だ

魔王
……そうか

勇者
なあ、魔王

魔王
なんだ、勇者

勇者
お前、少しやつれてきてないか

魔王
……そうか? しかし、やつれる理由はないぞ

勇者
お前、もう鎖で拘束されていることに違和感はないんだな

魔王
そう思うのなら解いてくれ

勇者
……少し緩めよう

勇者
どうだ。鎖を長くして、その部屋内なら自由に動けるようにはしてやったぞ

魔王
……さながら飼い犬のようだな

勇者
何か良いことをすれば、その鎖を伸ばしてやろう

魔王
私はピノキオか何かか

勇者
眠たければ、俺が寝ていない間ならそこのベッドも使って構わない

魔王
元々私のベッドだ、阿呆

勇者
では、畑を耕しに行ってくる(バタン

魔王
…………

魔王
ん~~っ……!(グググ

魔王
っはぁ。いいな、気持ちがいい

魔王
…………(ピョンピョン

魔王
はは、足が震えるけど、久しぶりに動いた

魔王
走ってみよう(ワクワク

魔王
……♪(トタトタ

魔王
うぐっ(ガッ

魔王
そうだ、鎖はこの部屋分の長さしかないんだった……

魔王
よし、少し部屋の中を探索してみよう

魔王
タンスがあるぞ。……何も入ってない

魔王
壺がある。……なんだ薬草か

魔王
探索が終了してしまった。何もないじゃないかこの部屋

魔王
……いや、何かある部屋に魔王を監禁しないか

魔王
ベッドで寝るか……(バフッ

魔王
ふかふか……懐かしいな

魔王
しかし、あいつの匂いが付いているのが不快だ

魔王
まるであいつと一緒に寝ているみたいじゃないか

魔王
昔は九尾の狐と一緒に寝たものだが……


勇者
……ふむ。畑もだいぶ安定してきた

勇者
こうなると、牧畜もやりたくなってくるな

勇者
しかし、野菜を育てるより数段難しそうだ

勇者
いや、やれることはやってみよう

勇者
さすがに小屋は魔法で作ってしまうか

勇者
お金なら有り余ってる。牛、鶏……まあその辺で良いか


勇者
魔王、牧畜を始めることにする

魔王
そうか(グッグッ

勇者
何故体操をしてるんだ

魔王
運動不足だったからだ(グッグッ

勇者
魔王の服では凄まじく似合わないな

魔王
それで、何でそれを私に伝えるんだ?

勇者
さらに家にいる時間が少なくなるからな。パンとかはお前の手の届く場所に置いておくから、俺が帰ってこなかったら食べてくれ

魔王
お前の子供じゃないんだぞ、私は。手の届くって

勇者
鎖のリーチ的な意味でな


勇者
数週間かかったが、ようやく牧畜も落ち着いてきた

魔王
そうなると、何が食べられるんだ?

勇者
ミルクや卵だな

魔王
そうか。楽しみにしているよ

勇者
さあ、もう寝ようかな。おやすみ、魔王


魔王
……なあ、勇者

勇者
寝てないなんて珍しいな。なんだ、魔王

魔王
月明かりが入ってきている。今夜はさぞかし月が綺麗な夜なのだろうな

勇者
ああ、とても綺麗だった

魔王
……久しぶりに、外の景色を見てみたいものだ

魔王
いや、自分の置かれている立場は、分かっているのだがな

勇者
首を鎖で繋いで、俺と散歩するっていうなら構わないが?

魔王
わかった、それでいい

勇者
なっ


魔王
ああ、久しぶりの外の空気だ!

勇者
……これで本当にいいのか?

魔王
何がだ?

勇者
もうちょっと、こう……プライドとかは無いのか?

魔王
私に自由はほとんどない。手に出来る自由は、何としてでも手にしたい

魔王
ここで朽ちる運命なら、なおさらな

勇者
……半年間でだいぶ変わったな、お前

魔王
はは、私は思ったより適応力があるようだ

彼女は美しかった。醜い鎖に繋がれていてさえも。
それどころか、鎖は月明かりを反射して、綺麗に輝いていた。
月夜に照らされて、嬉しそうに踊る彼女の姿は、さながら妖精のようだった。
勇者
なんて……詩人か、俺は

魔王
どうかしたか?

勇者
なんでもない。もう満足か?

魔王
もう少しだけ、ここにいたい

魔王
なあ、勇者

勇者
なんだ、魔王

魔王
ここは、綺麗なところだな

勇者
そうだろう

魔王
畑や、牧場を見てもいいか?

勇者
……いいよ


魔王
ここが畑か

勇者
踏まないよう気をつけろよ

魔王
分かってる

魔王
随分と、広いな。これ全部、お前の手作業で?

勇者
何分、暇だからな


魔王
それで、ここが牧場か

勇者
踏まないよう気をつけろよ

魔王
何を?

勇者
糞を

魔王
…………うわぁっ!?

勇者
言わんこっちゃない

魔王
おお、これが牛か。噂通りミノタウロスのような顔をしている

勇者
ミノタウロスが牛の顔をしているんだよ

魔王
そんなの見た順で変わるものだ。私は牛より先にミノタウロスを知った。よしよし(ナデナデ

ベロリ
魔王
うひゃぁぁぁぁっ

勇者
牛に懐かれたな。よかったじゃないか

魔王
牧場へは、もう行かない……(グタ

勇者
安心しろ。外に出すなんてこと、もう二度とない

魔王
……ふふ

勇者
どうして笑うんだ?

魔王
やはり私は、お前のことを悪人として見ることはできない

勇者
正気か? 半年もの間、お前を監禁している男だぞ

魔王
お前は、私に嫌われようとしているだろう。わざとひねくれたことを言って

魔王
そして実際私は、お前が嫌いだ

魔王
だけど、お前は決して悪人じゃない

魔王
畑や、牧場を見たら分かる。醜い心では、こうも見事なものはできない

勇者
……お前の考えは理解できない

魔王
私はお前の考えを理解しているつもりだが?(クス

勇者
……寝ぼけておかしくなったか? ほら、もう行くぞ(グイ

魔王
ぐっ。こら引っ張るな、馬鹿者


魔王
……(スー

勇者
……なあ、魔王

魔王
ふあ。なんだ、勇者

勇者
寝ていたのか、すまない

魔王
構わない。どうした

勇者
魔王は、どうやって決めるんだ?

魔王
魔王は基本的に世襲制だ。魔王の子がその力を引き継ぎ、次の魔王となる

勇者
お前は、それで良かったのか? 生まれた時から魔王として生きることを決められて

勇者
自分はこう生きたかったとか、そういうのは無かったのか?

魔王
道が作られているのに、その道を通らない理由があるのか?

魔王
誰かに決められた道を歩くのはつまらないと謳う者がよくいる

魔王
でも、誰かが作ってくれた道を進むことは、当たり前のことだろう?

魔王
わざわざ道なき道を彷徨い歩く者に、光明はあるか?

魔王
誰かが私の為に道を作ってくれたのなら、私はその道を歩きたい

勇者
そうだろうな。誰かの好意を無下にして、終わりの見えない道を通って、そこまでして勇者になる道を拒むなんてできない

勇者
……でも本当は、俺は勇者になりたくなかったんだ

勇者
みんなが馬鹿みたいに俺に期待するから断るに断れなかった

勇者
そりゃ、俺は強さには自信があったよ

勇者
皆を守ってあげたよ

勇者
けど、どこまでいっても俺は『守ってあげた』なんだ

勇者
気付いたら体が動いてるとか、そんな勇者的な理由じゃない

勇者
感謝されたいとか、そんな理由だ

勇者
でも、俺が強くなるにつれて、そんな感謝もなくなっていった

勇者
助けなかったら罵声を浴びる。助けるのが当たり前とでも言いたげに

勇者
助けても怯えられるだけ。魔族の共食いを見ているような目をされる

勇者
だから俺は、人と関わりたくなくなった

勇者
とんだ偽善者だろう?

魔王
……とんでもないよ

魔王
立派な理由じゃないか

魔王
素直な気持ちで良い。理由のない人助けは、自己犠牲になりがちだ

魔王
助けられておいて感謝しない人間なんて、放っておけばいい

勇者
……おいおい

魔王
勇者的じゃなくたっていいじゃないか。お前は勇者である前に、人間なんだから

勇者
さすが魔王なだけはあるな、独特の人生観を持ってる

魔王
魔王らしくないがな。自分だって自覚している

勇者
……じゃあ、何で魔王になろうと思えたんだ?

魔王
さっき言った通り、魔王への道が最初からあったのもあるし……なにより、皆を守りたかったから

魔王
先代は厳格で、全ての魔族を統治していたし、人間の支配を企んでいた

魔王
そういう意味で、私は魔王らしくはない

魔王
だが、魔王になることで力を得て、皆を守れるなら、私は魔王になりたいと思ったし、お前を倒そうと思った

魔王
……結局、私は敗れ、何もできずここにいるわけだが

勇者
……らしくないことを言った。また風邪でも引いたかな

勇者
もう寝るよ。おやすみ、魔王

魔王
おやすみ、勇者

勇者
――っ?

勇者
……魔王、今、なんて

魔王
…………

勇者
起きてるだろう。気配で分かるぞ

魔王
…………

勇者
まったく。まあ、いいよ


勇者
…………(ゴホッ

魔王
本当に風邪を引いていたのか。馬鹿か、お前は

魔王
あれほど気をつけろと言っただろう

勇者
返す言葉もない……

魔王
残念なことだ。昨日のことも、全て風邪だったからなのか

勇者
いや……そうじゃない

魔王
もういい喋るな。食事くらいたまには私が作る(トタトタ

勇者
いやお前、この部屋内しか動けないだろ

魔王
何か言ったかー? 勇者、何が食べたい。リンゴでも剥こうか(ガサガサ

勇者
え?

勇者
ひょっとして、昨日鎖を解いた時……

魔王
ああ。繋がれていなかったぞ


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