勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」④

投稿日:2017-09-07 更新日:

勇者
いや待て。何故逃げなかった?

魔王
なんだ、逃げてほしかったのか?

勇者
はぐらかすな。何故鎖に繋がれていなかったのに、逃げなかったんだ?

魔王
どちらにしろ鎖が首についたままだし、魔法も使えない

魔王
こんな山奥、一人で逃げたって、獣に喰われてしまうかもしれない

魔王
ごくごく単純な理由だが?

勇者
そうか。そりゃそうだな

魔王
なんだ? 『貴方と居たいから』とでも言ってほしかったのか?(クス

勇者
…………

魔王
ほら、リンゴだ。食べろ勇者

勇者
……切れよ

魔王
なんと。皮を剥くだけではだめなのか

勇者
食べやすいサイズに切るだろう、普通

魔王
そうか、今切ってくる(トタトタ

勇者
いや、別にいいんだが……まあいいか

魔王
切ってきた

勇者
サイコロ型のりんご……? まあいいか。いただくよ

勇者
いやおかしいだろう

魔王

勇者
鎖がある限りお前が逃げられないのはいいとして、何故俺の世話をする

魔王
面倒な奴だな。嫌いな奴に何かするのに、いちいち理由が必要なのか

魔王
強いて言うなら、いつも食事をさせてもらってる礼だよ

勇者
そうか……そんなものか?

魔王
ほら、食べろ。それとも私に食べさせてもらいたいのか?

勇者
結構だ

魔王
(ジー

勇者
……食べ辛い

魔王
いつもお前がやっていたことだろう

勇者
なるほど、疲労感を伴うな

魔王
そうだろう?

魔王
よし。今日はもう寝ているといい。私も、大人しくしていよう

勇者
…………(ギュ

勇者
……少しだけ、傍にいてくれないか

魔王
お前、風邪になると本当に素直になるな……

魔王
まあいい。どうせやることもないし

魔王
…………

勇者
……なあ、魔王

魔王
どうした、勇者?

勇者
俺は、お前が嫌いなはずなんだ

勇者
なのに、何故こうしていると、とても落ち着くんだろうな

勇者
……実を言うと、ずっとこうしたいと思ってた

勇者
誰かに頼られるんじゃなくて、たまには頼ってみたかった

勇者
ずっと叶わないんだろうと思ってたけど、お前が叶えてくれた

勇者
魔王というからには、プライドが高くて、嫌味で、偏屈な奴だと思ってた

勇者
実際暮らしてみると、お前は誰よりも優しくて、人間らしかった

勇者
変な意地で、ずっとお前と仲良くなどしてたまるかと思ってきたが、

勇者
……やっぱり駄目だな

勇者
何でお前は……そんなに、良い奴なんだ?

魔王
私は良い奴などではない。ただ私は、お前を放っておけないんだ

魔王
お前が平気で世界を滅ぼすような狂人なら、私はお前を許さない

魔王
だけど、ただお前が寂しくて私に手を伸ばしたというのなら。その手に剣が握られていようとも、私はお前の手をとろう

勇者
敵わないな……。やっぱり魔族を統べる王は違う

魔王
お前だって、立派な心を持ってる。それは誇っていいよ(ナデ

勇者
なんだか、すごく安心する。……まるで聖母のようだな

魔王
ぷっ、あははは! 聖母のよう、か! 魔王をよくぞそこまで大層な存在に例えたものだな!

魔王
そんなことを言っては、女神に叱られてしまうぞ?

魔王
それにな、私は、聖母みたいにすべてを愛せないよ。自分の周りだけで精一杯さ

魔王
でも、……嬉しいよ、勇者。ありがとう

勇者
俺の方こそ、付き合ってくれてありがとうな、魔王

魔王
ん。どういたしまして、勇者

勇者
……(スー

魔王
寝たか。そういえば、勇者の寝顔を見るのは初めてだな

魔王
私も、寝るかな……

―魔王城・会議室―
九尾の狐
また集まったのう

吸血鬼
集まる意味あるのかな?

龍人
あるに決まっているだろう。お前ら会議を何だと思ってる

でもよ、集まって何話すんだ。今のところ、もう魔族と人間の間で大きな騒ぎはないけど

龍人
だから彼奴らが油断している間に攻め入るべきなんだろうが!

吸血鬼
もーまたそんな話? いいじゃんさ、人間は魔族を滅ぼそうとしてるわけじゃないし

龍人
だからといって人間の下にいてたまるか!

吸血鬼
なら言わせてもらいますけどね、このまま戦争したって、魔族が負けるのは目に見えてるよ

龍人
何故だ

九尾の狐
勇者がいるからに決まっておろう

龍人
あの若造か。我らとの戦いから逃げた卑怯者だ、恐るるに足らん!

吸血鬼
勇者は、できるだけ被害を抑えたかっただけだよ

龍人
貴様、勇者の肩を持つのか!

吸血鬼
そりゃ、あの人に助けてもらったからね、私は

吸血鬼
私たちは絶対に勇者と対峙しちゃならない。死ぬよ、本当に

龍人
我らが大軍で攻めれば、どんな人間も勝てるはずがない!

吸血鬼
勇者と魔王ってのは、倒せるかも、とか、大軍で攻めればあるいは、とか、そんな次元に住んでる生き物じゃない

吸血鬼
だから、いつも勇者と魔王の一騎打ちで決めるんでしょ

吸血鬼
どんな大軍だろうと、勇者だけは倒せないから

龍人
貴様……我が軍を愚弄するか!!(チャキ

吸血鬼
わぁっ!?

九尾の狐
! 龍人、剣を下ろせ

龍人
…………分かった(スッ

ひやっとしたぞ。魔族のことを想うのはいいが、熱くなりすぎるなよ。お前の悪い癖だ

龍人
すまなかった

吸血鬼
はふー。びっくりした

吸血鬼
もう抑えるのも限界が近いなぁ

吸血鬼
また魔王様が、ここに来てくれたら嬉しいんだけど


『わぁ、お母様、こんな立派なベッドを、私にくれるのですか!?』
『えぇ。もう私には必要ないから』
『……お母様、どこかへ行ってしまうのですか?』
『あははっ、違う違う。新しいベッドをもらったのよ、別に形見のつもりじゃないわ』
『私は、いつまでもあなたの傍にいるからね……』
魔王
…………ふあ?(パチ

勇者
……(スー

魔王
うわぁっ!?(ドンッ

勇者
痛っ!(ゴン

魔王
あ、……勇者、か。びっくりした。うん、勇者だな

勇者
人をベッドから落としておいて、何を残念そうな顔をしてるんだ

魔王
夢を見ていた。魔王城にいたころの夢だ

勇者
……耳が痛くなるな

魔王
しかし、まあ

勇者

魔王
たった半年で、距離が随分と縮まったものだ

勇者
……そうだな

勇者
でも、ベッドの上で二人というのはいささか近すぎるぞ

魔王
ややこしい言い方をするなっ。今、どくよ

勇者
いや、いい。俺は食事の準備をする。その間、夢の続きでも見ているといいさ


勇者
ただいま、魔王

魔王
おかえり、勇者

勇者
ようやく苺が食べられるようになったぞ

魔王
今年は少し遅かったな

勇者
ああ。さて、ジャムでも作ろうかな

魔王
なあ、もう何年経っただろうな。お前も私も歳をとらないから、時の流れを感じない

勇者
そうだな。俺もいちいち覚えちゃいない

勇者
でも、やはり何年経ったかは知っておくべきか……

勇者
久しぶりに、人里へ降りてみようかな

―街中―
勇者
門番がいる。……前まではいなかったはずだ

勇者
何かあったんですか?

兵士
ああ、近くの町で魔族との争いが起きてな。この街も厳戒態勢をしくこととなった

勇者
……!? どういうことですか?

兵士
驚くのも無理はない。だが、実際に争いが起きたのだよ。その街は何とか持ちこたえたものの、ほぼ壊滅状態だ

兵士
ここも、いつ狙われるかどうか

兵士
早く世界が平和になってくれないものか……(ハァ


勇者
……との、ことだ

魔王
そんなっ!?

魔王
……私が、なんとかしなくては

魔王
勇者。久しぶりに言う。この鎖を解いてくれ

勇者
…………。駄目だ

魔王
何故だ!? このままでは、本当に戦争になってしまう!

勇者
解いて何をするというんだ? 鎖は魔力を奪う。今のお前の力は、そこら辺の魔物とたいして変わらない

勇者
そんなお前に、何ができる?

魔王
魔族達を、説得する

勇者
そんなことしてる間に斬りつけられるかもしれないじゃないか

魔王
あいつらは、そんなことしない!

勇者
お前それでも魔王か! もっと疑えよ! いいか、子供が生まれる前に魔王が死ねば、次の魔王を決めることができる。お前を殺したい奴が、魔族にだって山ほどいるかもしれないんだぞ!

魔王
お前こそ、それでも勇者か!? 何故仲間を信じられないのだ!

勇者
ああもう、馬鹿な奴だ! 俺がここまで心配しているのに、なんで分からない!

魔王
心配っ? お前が私を心配するというのか

勇者
そうだ、心配だよ! お前をむざむざ死なせるような真似はさせない!

魔王
それは、私の為の心配か? お前の不老不死とやらの心配ではないのかっ!!

勇者
……っ違う、俺は!

魔王
……すまなかった。今のは、私が悪かった

勇者
いや。そう思うのも、無理はない

勇者
どこまでいっても、俺とお前は敵同士なんだから

魔王
そんなこと、……

勇者
魔王。今日はもう寝ていろ

魔王
こんな状態で、寝ていられるか……!

魔王
今日だけで良い、少しだけで良い。お願いだ勇者、鎖を解いてくれ!

勇者
……駄目だ

魔王
勇者っ……!

勇者
泣くなよ。泣かないでくれ。卑怯だ

魔王
みん、な……(スー

勇者
結局泣き疲れて寝るって。まったく、子供かお前は(ハァ

勇者
さて

勇者
戦争を止めに行くか

―魔王城・医務室―
吸血鬼
ふえーん。まさか、本当に龍人に斬りつけられるとはねぇ。失敗、失敗♪

魔族医
反省しとらんねアンタ

吸血鬼
だって私不死だしぃ

魔族医
まったく、これだからアンデッドの治療は嫌だ

吸血鬼
そんなこと言わないでよー。夜の相手はしてあげてるでしょん?

魔族医
してもらった覚えは無い

吸血鬼
やだー資料運びのことよ魔族医くんやらしーい

魔族医
回復呪文かけるぞ、コラ

ガチャリ
勇者
あ、間違えた

吸血鬼
あら勇者サマ

魔族医
 

勇者
あ、お前。そうか、どこかで見たことあると思ってたんだ

吸血鬼
死霊将軍の吸血鬼よん。この前はありがとー

勇者
龍人はどこだ?

吸血鬼
私室にいるかな

魔族医
何普通に接しているんだお前は!


コンコン
九尾の狐
誰じゃ?

勇者
人違いだった

九尾の狐
おま、何故いるんじゃ、こらっ

勇者
人違いだよ。それじゃな

勇者
あいつ鼻がきくから、魔王と一緒に居ることがバレるかもしれないし


ガチャリ


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