はぐらかすな。何故鎖に繋がれていなかったのに、逃げなかったんだ?
どちらにしろ鎖が首についたままだし、魔法も使えない
こんな山奥、一人で逃げたって、獣に喰われてしまうかもしれない
なんだ? 『貴方と居たいから』とでも言ってほしかったのか?(クス
鎖がある限りお前が逃げられないのはいいとして、何故俺の世話をする
面倒な奴だな。嫌いな奴に何かするのに、いちいち理由が必要なのか
強いて言うなら、いつも食事をさせてもらってる礼だよ
ほら、食べろ。それとも私に食べさせてもらいたいのか?
よし。今日はもう寝ているといい。私も、大人しくしていよう
なのに、何故こうしていると、とても落ち着くんだろうな
誰かに頼られるんじゃなくて、たまには頼ってみたかった
ずっと叶わないんだろうと思ってたけど、お前が叶えてくれた
魔王というからには、プライドが高くて、嫌味で、偏屈な奴だと思ってた
実際暮らしてみると、お前は誰よりも優しくて、人間らしかった
変な意地で、ずっとお前と仲良くなどしてたまるかと思ってきたが、
私は良い奴などではない。ただ私は、お前を放っておけないんだ
お前が平気で世界を滅ぼすような狂人なら、私はお前を許さない
だけど、ただお前が寂しくて私に手を伸ばしたというのなら。その手に剣が握られていようとも、私はお前の手をとろう
お前だって、立派な心を持ってる。それは誇っていいよ(ナデ
なんだか、すごく安心する。……まるで聖母のようだな
ぷっ、あははは! 聖母のよう、か! 魔王をよくぞそこまで大層な存在に例えたものだな!
それにな、私は、聖母みたいにすべてを愛せないよ。自分の周りだけで精一杯さ
寝たか。そういえば、勇者の寝顔を見るのは初めてだな
―魔王城・会議室―
あるに決まっているだろう。お前ら会議を何だと思ってる
でもよ、集まって何話すんだ。今のところ、もう魔族と人間の間で大きな騒ぎはないけど
だから彼奴らが油断している間に攻め入るべきなんだろうが!
もーまたそんな話? いいじゃんさ、人間は魔族を滅ぼそうとしてるわけじゃないし
なら言わせてもらいますけどね、このまま戦争したって、魔族が負けるのは目に見えてるよ
あの若造か。我らとの戦いから逃げた卑怯者だ、恐るるに足らん!
私たちは絶対に勇者と対峙しちゃならない。死ぬよ、本当に
我らが大軍で攻めれば、どんな人間も勝てるはずがない!
勇者と魔王ってのは、倒せるかも、とか、大軍で攻めればあるいは、とか、そんな次元に住んでる生き物じゃない
だから、いつも勇者と魔王の一騎打ちで決めるんでしょ
ひやっとしたぞ。魔族のことを想うのはいいが、熱くなりすぎるなよ。お前の悪い癖だ
『わぁ、お母様、こんな立派なベッドを、私にくれるのですか!?』
『えぇ。もう私には必要ないから』
『……お母様、どこかへ行ってしまうのですか?』
『あははっ、違う違う。新しいベッドをもらったのよ、別に形見のつもりじゃないわ』
『私は、いつまでもあなたの傍にいるからね……』
人をベッドから落としておいて、何を残念そうな顔をしてるんだ
でも、ベッドの上で二人というのはいささか近すぎるぞ
いや、いい。俺は食事の準備をする。その間、夢の続きでも見ているといいさ
なあ、もう何年経っただろうな。お前も私も歳をとらないから、時の流れを感じない
―街中―
ああ、近くの町で魔族との争いが起きてな。この街も厳戒態勢をしくこととなった
驚くのも無理はない。だが、実際に争いが起きたのだよ。その街は何とか持ちこたえたものの、ほぼ壊滅状態だ
何故だ!? このままでは、本当に戦争になってしまう!
解いて何をするというんだ? 鎖は魔力を奪う。今のお前の力は、そこら辺の魔物とたいして変わらない
そんなことしてる間に斬りつけられるかもしれないじゃないか
お前それでも魔王か! もっと疑えよ! いいか、子供が生まれる前に魔王が死ねば、次の魔王を決めることができる。お前を殺したい奴が、魔族にだって山ほどいるかもしれないんだぞ!
お前こそ、それでも勇者か!? 何故仲間を信じられないのだ!
ああもう、馬鹿な奴だ! 俺がここまで心配しているのに、なんで分からない!
そうだ、心配だよ! お前をむざむざ死なせるような真似はさせない!
それは、私の為の心配か? お前の不老不死とやらの心配ではないのかっ!!
今日だけで良い、少しだけで良い。お願いだ勇者、鎖を解いてくれ!
結局泣き疲れて寝るって。まったく、子供かお前は(ハァ
―魔王城・医務室―
ふえーん。まさか、本当に龍人に斬りつけられるとはねぇ。失敗、失敗♪
そんなこと言わないでよー。夜の相手はしてあげてるでしょん?
ガチャリ
あ、お前。そうか、どこかで見たことあると思ってたんだ
コンコン
あいつ鼻がきくから、魔王と一緒に居ることがバレるかもしれないし
ガチャリ