勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」⑥

投稿日:2017-09-09 更新日:

―山小屋内―
ガチャ

勇者
ただいま、魔王――

魔王
ッ……!!

勇者
ずっと、鎖を外そうとしてたのか……

勇者
変にかっこつけて、黙って出てったのは失敗だった。何やってんだ俺

勇者
おいおい、手、血だらけじゃないか! 今治すよ(パァァァ

魔王
私の仲間が死ぬかもしれないのに……傷など気にしていられない……っ!

勇者
すまなかったよ、ごめん、無茶なことをさせて

魔王
そう思うなら……

勇者
大丈夫だ、戦争は終わった

魔王
へ……?

勇者
何とかして終わらせた。……お前が、あんまりにも儚げだったからな

魔王
あ、あっ……

魔王
勇者ぁぁぁっ……!(ダキ

勇者
ちょ、ちょちょちょ、待て待て待て

魔王
ありがと、ありがとう勇者……!(ギュウ

勇者
あ、あー、そうか。うん。どういたしまして、うん

魔王
お前が戦争を止めるなんて、思いもしなかった

魔王
世界の滅亡を見届けるなどと、言っていたから……

勇者
気が変わったんだ。お前は、……この世界が、大好きなようだから

勇者
なあ、魔王

魔王
ん? どうした、勇者

勇者
そろそろ、離れてもらいたいんだが……

魔王
? ……うわぁっ!?(ドン

勇者
ぐえっ。何で俺が突き飛ばされなきゃいけないんだ

魔王
す、すまん。つい、感極まってというか、その

勇者
いや、いいんだ。……俺も、別に嫌なわけじゃなかったし

魔王
……っ(カァ

勇者
…………(カァ

勇者
も、もう寝ることにしよう。日も暮れてきたし

魔王
そ、そうだな。おやすみ、勇者

勇者
おやすみ、魔王

魔王
(スー

勇者
……なんでベッドで寝るんだ

勇者
しかもすでに熟睡してるし

勇者
ああもう、今日は俺が床か

―魔王城―
勇者
こんにちは

九尾の狐
来るなとは言わんが、そんな友人の家を訪れる感覚で来てもらっても困るのじゃ

勇者
いやいや。その後、いざこざはないかと思ってな

九尾の狐
人間との関係なら、良好じゃ。問題ない

勇者
そっか。それは良かった

吸血鬼
あらあら勇者サマ。ごきげんよー。ちょっと吸血させて

おう、勇者。酒でも飲むか?

勇者
お前ら、暇なのか……?

龍人
暇じゃない。こいつらが自由すぎるだけだ……(ハァ

勇者
お前も大変だな

吸血鬼
ねえねえねえ、勇者サマ♪

勇者
な、なんだ一体?

吸血鬼
魔王様とはうまくいってるかしら?(ボソ

勇者
うっ。そういえば、九尾の口ぶりからして、お前も知ってたわけだよな……

吸血鬼
私が予行演習やってあげようか……?

勇者
(ゾゾゾゾ

吸血鬼
もー、鳥肌立てることないじゃない

勇者
それにしてもお前ら、何で勇者と普通に接してるんだよ

九尾の狐
勇者自身が言うことではないのう

とは言ってもなぁ。俺ら、勇者には何もされてないし

九尾の狐
眠ってる間には全て終わっておった

吸血鬼
恨みようがないわねぇ

勇者
俺は、お前達の王を倒したんだぞ?

九尾の狐
勇者、お主は一体、何を恐れている? 何を望んでいる?

勇者
…………?

九尾の狐
お主は強い。魔族よりも、ずっと強い

九尾の狐
その強さ故、恐れられることもあったじゃろう

九尾の狐
でもな、勇者。お主が思っている程、人間も魔族も、弱くない

九尾の狐
あれから何度か、人間の王と話し合いをしてな

九尾の狐
奴は、私を恐れなかった。人間達も、慣れたようで、私を恐れたりしなくなった

九尾の狐
狐耳を持った不気味な私を恐れず、どうして勇者一人を恐れることがあろう?

龍人
自惚れるなよ、勇者

俺らは、別にお前を恐れたりしない

吸血鬼
いつでもウェルカムよ?

勇者
……お前達


勇者
ただいま、魔王……

魔王
おかえり勇者。どうだった?

勇者
そうだなぁ。四天王って、暇なんだな

魔王
はは。そうだな。あいつらは遊んでばかりだ

勇者
遊んでていいのか?

魔王
ああ。私がいなくても、元気そうで何よりだ

魔王
魔族社会は人間社会ほど複雑ではない。人間より多種多様なのに不思議なものだがな

魔王
だから、基本的には遊んで暮らすのが四天王の仕事だ

勇者
その言い方は語弊があるぞ……

勇者
魔王

魔王
なんだ、勇者

勇者
鎖の長さを調節してやろう

魔王
そういえば、何か良いことをすれば長くすると言っていたな

勇者
ああ。そういうわけだ

魔王
……唐突に思いだしただけだろう

勇者
思い出しただけいいじゃないか

勇者
家の中が全て行き来可能になった

魔王
ありがとう

魔王
そういえば、私は何かいいことをしたのか?

勇者
…………

魔王
さては、私に抱きつかれたのがそんなに嬉しかったか?(ニヤニヤ

勇者
なっ! そ、そんなわけが!(ガタッ

魔王
え? い、いや、冗談、だったのだが……

勇者
あ……(カァ

魔王
う……(カァ


九尾の狐
いらいらするのう

どうしたいきなり?

九尾の狐
なんじゃろな。なにかがびびっときた

はぁ……?

九尾の狐
よく分からんが、なかなか進展しない恋人を見ているような気分じゃ

その歳で恋愛でもしたいって? やめとけ、年寄りの冷や水だぞ(ハハ

九尾の狐
化かすぞ貴様


魔王
なるほど、ここまで鎖が長いと、外も見渡せるわけだな

勇者
あー。お前の部屋は窓がないしな

魔王
勇者! 畑が見えるぞ!

勇者
いやそれは俺の作った畑だよ

魔王
知っている! 知らぬ間にお前の畑はあんなに成長していたのだな!

勇者
まあ、数年前に一度見せたきりだったからな

魔王
こっちには牧畜があるぞ! すごいな、ミノタウロスみたいなのがたくさんいる!

勇者
だから、それは牛……。元気だなお前

魔王
なぁ、勇者

勇者
どうした魔王

魔王
外の景色は美しいな

勇者
そうだな

魔王
……もうちょっと何か、反応のしようがあるだろう

勇者
とは言ってもな。俺には見飽きた景色だ

魔王
面白くないな。改めて見て、気付くことだってあるだろう? ほら、窓から見てみろ

勇者
楽しそうだなぁ

魔王
~~♪

勇者
歌なんて歌ってる……上手いな。それにいい曲だ

魔王
~♪ ……勇者。景色を見ろというのに、私を見てどうする

勇者
うぐ。すまん

勇者
お前が可愛かったから、つい……

勇者
言えるかっ!!

魔王
ほら、早く見てみろ

勇者
あ、ああ

勇者
……やっぱり、何も感じない

魔王
ふむ。残念だ

勇者
だけど

魔王
……?

勇者
その、お前と一緒に見る景色は、……やっぱり少し違って見えるな

魔王
そっ! ……そう、ですか

魔王
何故敬語を使ったんだ今! 何を照れてるんだ!

魔王
いやいや、勇者は特段何も変わったことは言ってないぞ

魔王
一人で見る景色と二人で見る景色はまた違うと、そういうことが言いたいだけだ

勇者
よく考えたら別に普通の言葉じゃないか

勇者
ああもう、自分の語彙力の乏しさが情けない

勇者
というか何故敬語? どういう意図で今敬語使ったんだ?

勇者
(チラ

魔王
(チラ

勇者
っ!!(フイッ

魔王
っ!!(フイッ

勇者
目が合ってしまった……!

魔王
目が合ってしまった……!

勇者
駄目だ駄目だ! 形はどうあれ、俺は何もしないと最初に言ったんだから!

勇者
いやでも、風邪の時にいろいろ暴露した気がする……

魔王
これじゃうかつに勇者の顔を見れないじゃないか……

魔王
! い、いや、そもそも何であいつの顔を見なければいけないんだ!

魔王
うぅ、でも何故か、勇者の顔を見つめていたい

魔王
この歳で思春期か。はぁ、遅いにも程がある

勇者
……魔王、なんだか顔が赤いな

勇者
凄まじく可愛い

勇者
くそ、何で今まで同じ屋根の下で二人過ごせてたんだ?

勇者
俺も一応、思春期真っ盛りの男だった……!

勇者
あーもうっどうにでもなれ!

勇者
魔王!!(ガシッ

魔王
ひゃいっ!?

魔王
変な声出てしまった! 恥ずかしい逃げたい! けどしっかり掴まれてて動けない!

勇者
……あ、やばいこれ。どうしていいかわからん

魔王
ど、……どうなされた?

勇者
……あの、

魔王
は、はい

勇者
目、閉じててくれないか。すぐ終わるから

魔王
はい? えと、は、はい

勇者
――っ(チュ


魔王
……っ!!?(カァァァ

―魔王城―
龍人ー、酒飲もうぜ

龍人
鬼、それはただのきゅうりだ

……んぅ?

九尾の狐
ふん(プイ

龍人
……九尾、戻してやれ

九尾の狐
私も傷つく時は傷つくのじゃよ。何言われてもどこ吹く風ではないのじゃ

酒うめぇ(シャキシャキ

九尾の狐
年寄りの冷や水、か

九尾の狐
見た目は幼い女子じゃが、呪文を解けば老いぼれた狐

九尾の狐
はぁ。自分でも分かっておるのじゃ。もう昔のように、美貌で人を騙せぬと

九尾の狐
本当に恋慕した相手でさえ、手にすることは叶わなかったのじゃから

九尾の狐
はぁ……何千年も前のことで、何を憂鬱になっておるのやら

龍人
……あー。何と言ったらいいのか

九尾の狐
人間というのは、弱い

九尾の狐
大狐の姿を見せるだけで、恐れおののく

九尾の狐
じゃから、魔族は強い人間を求める。人間が強くなるのを待つ。人間という存在に期待してみる

九尾の狐
それが、勇者が来るのを待ち続ける魔王の美徳なのじゃよ

龍人
…………お前、ひょっとすると

九尾の狐
何千年も前のことじゃ。それも、もう幻となった東方の国のな。はぁ、せめて魔王様には幸せになってほしいものじゃの

勇者
久しぶり

九尾の狐
おお、勇者。久しゅう

勇者
そっちは相変わらず平和みたいだな

九尾の狐
ははは。やはり争いは無いにこしたことないのう

九尾の狐
それで。……魔王様とはどこまでいった? ほれ、教えよ教えよ!(フリフリ

勇者
楽しそうだなぁ、おい……

勇者
……キ

九尾の狐
キ?

勇者
……せっ

九尾の狐
せっ??

勇者
…………唇と唇を重ね合わせるところまで


関連記事

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」⑨

龍人 怖い顔っ……!? 鬼 ぷっ 龍人 わ、笑うなぁぁ! フレデリカ 鬼といっしょにいるときは楽しそうなのになー フレデリカ ねぇ、鬼ー 鬼 んー? なんですかフレデリカ様 フレデリカ のどがかわいた …

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」④

勇者 いや待て。何故逃げなかった? 魔王 なんだ、逃げてほしかったのか? 勇者 はぐらかすな。何故鎖に繋がれていなかったのに、逃げなかったんだ? 魔王 どちらにしろ鎖が首についたままだし、魔法も使えな …

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」②

勇者 雨、か。晴耕雨読、今日は読書でもしてようかな 勇者 いや、耕すどころかまだ畑が完成してすらいないぞ 勇者 ……やるか 魔王 …………む(パチ 魔王 勇者がいないな。もう外に出たということか 魔王 …

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」⑧

―魔王城― 九尾の狐 このぉー! このぉー! やってくれおって! ふふふふ!(パタパタ 勇者 笑いながら怒られてもなぁ 魔王 驚いた。知らない内に随分仲良くなっていたんだな 九尾の狐 ああ、魔王様。挨 …

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」⑤

勇者 久しぶりだな 龍人 ……何の用だ。よくも私の前に姿を現せたものだな、勇者! 勇者 すまない。でも、ひとまずは戦争を止めてほしい。それを伝えるために来た 龍人 いきなり侵入しておいて、言いたいこと …