勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」

勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」⑦

投稿日:2017-09-09 更新日:

九尾の狐
ぷふっ

勇者
一番恥ずかしいのを選択してしまった

九尾の狐
というかっ。少なくとも十年以上経っておるじゃろ! まだ接吻だけじゃと! このへたれ!

勇者
う、うるさい

吸血鬼
えっちな言葉を聞いて飛んできました

勇者
出てけ

九尾の狐
……真面目な話な? お主、寿命が短いのじゃぞ? さっさとせんと、気付けば体など衰えておるぞ!

勇者
老いなんて、俺にはあって無いようなものだよ

九尾の狐
なぁにを言っておるか。老いは誰にもくるものよ。現にほれ、お主だってしばらく会わぬうちに少し老けておるではないか

勇者
……は?

九尾の狐
は? とは何じゃ。じゃから、少し老けておると

吸血鬼
そうねぇ。前までは青年って感じだけど、何かおじさんって感じになったかな?

吸血鬼
大丈夫、ナイスミドルよ! まだまだモテるレベル!

勇者
い、いや、ちょっと待てよ……

勇者
勇者の宿命を終えない限り、俺は不老不死のはず……。魔王を倒してないから、その加護が解かれるはずがない

九尾の狐
そんなこと言ってものう。老けておるものは老けておるものなぁ

吸血鬼
ねぇ?

勇者
…………


勇者
なぁ、……魔王

魔王
どうした勇者?

勇者
お前は、ずっと若いまま、だよな。うん、変わってない

魔王
いきなりどうした?

勇者
どうやら、俺は少し老けたらしい

魔王
……不老不死のはずなのに、ということか?

勇者
何でだよ……なんで、老いが始まってるんだ

勇者
せっかく、ずっとお前と居られると思ったのに

魔王
……なぁ、勇者。具体的に、不老不死でいられるのはいつまでなんだ?

勇者
? それは、女神の加護が切れるまでだが……

魔王
女神の加護が切れるのは、いつなんだ?

勇者
勇者としての使命を果たした時だ

勇者
これは契約みたいなものだから、女神が自由に消せるものでもないはずだ

勇者
だから、魔王を倒さない限りその加護は消えるはずがないのに……!

魔王
……勇者

勇者
なんだ?

魔王
お前は、勇者の使命を何と捉えている?

勇者
だから……魔王を倒すことじゃないのか

魔王
それは、おかしいだろう?

魔王
勇者の使命は、ただ単に魔族を殺すことなんかじゃない

魔王
それだったら誰にだってできる

魔王
女神は単に魔族を殺してほしいわけじゃないはずだ

魔王
そうじゃないだろう

魔王
人間を幸せにすることが、女神の望みだろう?

勇者
結局、何が言いたいんだよ……?

魔王
魔王が死ぬことが人間の幸せではない

魔王
魔王が死ぬことは、それの通過点に過ぎない

魔王
……世界を平和にすることこそが、勇者の使命だ

勇者
世界を、平和にすること?

魔王
お前は、戦争を止めた。そして、この世界に平和を取り戻した

勇者
はは……何だよそれ。せっかく世界平和にしたのに、いいとこなしじゃないか

勇者
俺は普通の人間に戻っちゃ困るんだよ

勇者
お前と一緒に、生きたいんだから……

魔王
一緒に生きることは、できるよ

魔王
私は、例えお前が普通の人間になったとしても、お前と一緒に居たい

魔王
駄目かな

勇者
……でも、いずれお前とは離れてしまう

魔王
何を女々しいことを言っているんだ。出会いがあれば、その数だけ別れがある。当然だろう?

勇者
いいのか? お前と一緒に居ても

魔王
当然だ

勇者
今だったら、鎖を解いて、魔王城にだって戻してやれる

勇者
その方がよっぽど寂しい思いをせずに済むだろう

魔王
……馬鹿なこと、言わないでくれ

魔王
今は、一時でもお前と離れたくない

魔王
お前がいないと、私は寂しい

魔王
時間が限られているのは、いつだって同じだ

魔王
もう一度言うよ。お前と一緒に居たい。それでは、駄目かな

勇者
……ありがとう、魔王

魔王
らしくないな。泣いてるのか?

勇者
あまり見ないでくれよ……。目、閉じててくれ

魔王

勇者
……(チュ

魔王
んぅっ……

勇者
……

魔王
……あむ(レロ

勇者
むぐ!?

魔王
……んむ、……ちゅ(レロレロ

勇者
~~~~っ

魔王
ぷはぁっ!

魔王
……死ぬかと思った

勇者
息くらいしろよ……

勇者
……さ、さあ。そろそろ寝よう

魔王
ま、待て!(ガシィ

勇者
なんだっ!?

魔王
こ、ここまできておいて逃げるのはなしだろう、勇者?

勇者
……えぇーと

魔王
わ、私ももう、収まりがつかないのだ。……寝るなら、一緒に寝よう?

勇者
 


九尾の狐
――はっはっは! よかったではないか! おめでとう!(フリフリ

勇者
……嬉しそうだなー

九尾の狐
私は魔王様の教育係。嬉しいに決まっておろう! 今日は赤飯じゃ!

九尾の狐
ああ、子供は男かのう。それとも女かのうっ?

勇者
気が早いな、おいっ。子供ができると決まったわけじゃないだろ

九尾の狐
うむぅ、本当ならこの事実を城中に叫んでやりたいものじゃが、これは私の胸の内にしまっておこう

勇者
そうしてくれ

九尾の狐
しかしのう。本当に私は嬉しいぞ

九尾の狐
……ありがとうな、勇者

九尾の狐
ところで、勇者。確認しておきたいことがある

九尾の狐
……私は、魔王様の教育係じゃ

勇者
知ってるけど、それが何だ?

九尾の狐
そして、一人の女でもある

勇者
見りゃわかる。何だ一体?

九尾の狐
勇者。魔王様に、『好き』と告げたか?

勇者
い、いや……告げてない

九尾の狐
(ハァーッ

勇者
なんだその大きなため息

九尾の狐
なあ勇者。お主は、人とは一緒に暮らせないという口実で魔王を攫った。そうじゃろう?

勇者
口実も、何も

九尾の狐
なら今も、人と一緒に暮らせないという理由で、仕方なく魔王様と暮らしておるのか?

勇者
いや、それは……

九尾の狐
答えよ、勇者。お主は、何のために、魔王様を攫った?

勇者
…………

九尾の狐
他にいないからっ、仕方なくっ、魔王様を選んだのか? 答えよ勇者っ!

勇者
……い、いや、……ちが、

九尾の狐
好きでなく、何となく接吻して何となく行為をして! それだけか、それだけでしかないのか、貴様の中での魔王様は!

九尾の狐
いつまで、『誰かの代わり』の魔王様と一緒に居るつもりじゃ!

勇者
ち、違う違うっ、違うっ! 俺は、魔王だったから一緒に暮らそうと思った! 魔王だから、いろいろなことをした! 好きだからだ、他の誰でもない、魔王が!

九尾の狐
なら何で好きと言わぬのじゃ!

勇者
逆に、そこまでしたら言わなくても分かるだろ! 今さら言う理由があるのか!?

九尾の狐
こんのっ、へたれへたれへたれへたれっ!!

九尾の狐
これじゃから! これじゃからへたれは!

九尾の狐
誰だって、何となく分かっていても言葉にしてほしいものなのじゃ!

九尾の狐
魔王様に好きとも言えぬ輩に、魔王様はやらんぞ!

勇者
ど、どうしてそこまで言われる必要があるんだ!

九尾の狐
言葉で繋がらぬ愛は、長続きせん。そう決まっておる

勇者
別に、言葉が無くても繋がっていられる愛もあるだろ……!

九尾の狐
はっ。ならばなんじゃ、態度か、行動か?

九尾の狐
自惚れるな! そんなにお前が、魔王様と都合よく心を通わせられるわけないじゃろう! それらしい言葉が正しいと思うな!

九尾の狐
言葉がなければ、必ずすれ違いが起こる。その時に選ぶ言葉で、お主らのその後が幸か不幸さえも決まってしまう

九尾の狐
お主の寿命は短い。魔王様よりも、ずっと。魔王様は、お主が居ない世界を、ずっと生き続ける

勇者
……分かってる

九尾の狐
その選択を、後悔させるな。お主を忘れさせるな! 数千年分の想いを込めて、『好き』と言ってこい!!


魔王
どうだった?

勇者
…………えーと、とりあえず、おめでとうと。そして、ありがとうと

魔王
そうか、ありがとうとは、また……九尾らしいな

勇者
……う、あー

魔王
何を顔を赤くしているんだ、変な奴だな

勇者
魔王っ!

魔王
な、なんだっ?

勇者
あ、いや、なんでも……

魔王
そ、そうか

勇者
魔王っ!!

魔王
なんなんだ一体!

勇者
……魔王。えーと、ちょっと言い忘れていたことがあってだな

魔王
私に? 何を言い忘れていたのだ?

勇者
……あの、……

勇者
好き、だからな。魔王のこと

魔王
……えっ? あ、

勇者
いや、ちゃんと言ってなかったからな、まだ

魔王
……。ありがとう(カァァァ

魔王
私も、好きだ

魔王
でも、何でいきなり?

勇者
いや、それは、えーと

魔王
……九尾か?

勇者
うぐっ

魔王
まったく。九尾め、余計なことを

魔王
いや、余計なことではないか

魔王
嬉しいよ、勇者。とっても、嬉しい。ありがとう(ニコ

勇者
……ああ

勇者
言ってよかったな

勇者
朝食ができたぞ

魔王
いただこう

勇者
……なあ、魔王

勇者
よくよく考えれば、勢いで中に出したわけだが、その、大丈夫なのか?

魔王
ああ、うむ。問題ないよ

勇者
そっか(ホッ

魔王
ごちそうさま

魔王
はぁ……

勇者
どうしたんだ?

魔王
最近、すぐ吐き気が起こるんだ

勇者
大丈夫か? 背中、さすろうか

勇者
…………ちょ、え? 今何て言った?

魔王
いやだから、すぐ吐き気が起こるって

勇者
それ、妊娠の初期兆候じゃないのか?

魔王
ああ、そうだな

勇者
はぁっ? 大丈夫って言ってたろう、ついさっき

魔王
ああ。だから、問題なく子は授かった、と

勇者
(クラッ

魔王
ああっ、勇者!?

勇者
お前、それでいいのか? というか、本当に俺なんかの子を産むつもりなのか?

魔王
えぇっ? 何にせよ、子を授かったのはめでたいことじゃないのか?

勇者
いや、そうだけど! 心の準備というか、なんというか……!

魔王
……私とお前の子供、欲しくないのか?


勇者
とりあえずだな。鎖を解こう

魔王
? 何故だ?

勇者
忘れたのか、この鎖は魔力を奪うんだよ……

勇者
魔王みたいに成熟した大人なら奪われたとしても生命活動には何の影響も与えないが、子どもからそれを奪うのは危険だ

勇者
まあ、腹から出るまでは鎖に生命として見なされないから、大丈夫だとは思うけど、一応な

ガシャン
魔王
おおぉぉぉぉっ……? か、軽い。腕が軽い。脚も軽い

勇者
やっぱり腕も足も痛々しい痕が残ってるな……

勇者
ごめん。こんな傷を、お前につけて……

魔王
何を言う。もともと私たちは、この鎖によって繋がれていたのだ。この鎖がなければ、今、私たちはこうやっていないだろう?

勇者
まあ、そうかもしれないけど。でもそんなの詭弁だろう。お前はもうちょっと、俺を責める権利があるはずだ

魔王
私はお前を責めるつもりはないよ。それに今のは本音だ。確かに最初は強引に鎖で結びつけた関係だったけれど、だからこそ、今はこうして鎖がなくても繋がっていられるじゃないか

勇者
……やっぱりお前、魔王っぽくないなぁ

勇者
さて、と。妊娠ともなると、俺一人の問題じゃないだろう

魔王
とすると、どうするんだ?

勇者
……よし、魔王城に行こう

魔王
えっ? いいのか?

勇者
いいのか、って、お前、ここで産むつもりか? そんなことをして、万が一子供に何かあったら大変だ

魔王
……ふむ、それもそうか

勇者
それに、もう鎖が無くても、俺たちは繋がっていられる。お前がそう言ってくれたんだろう?

魔王
……うん。そうだな、その通りだ!


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